一般編  Vol.106
沖山泰彦さん
東京都出身。東京大学教養学部卒業後、住友銀行へ入社。1970年に加州住友銀行ロサンゼルス支店立ち上げのため渡米。1974より同行サンフランシスコ支店にて勤務。1987年に退職し、現地職員として同支店に再就職、1997年まで勤務。1993年より桑港寺理事、1998年より理事長を務める。ほかにも、茶道裏千家淡交会サンフランシスコ協会副会長、日米宗教連盟住宅公団理事・財務部長、ベイエリア住友クラブ会長、ジャパンクラブ理事・会計担当など、多くのコミュニティ団体で責任ある役割を担い、地域活動に積極的に貢献している。
調和がとれた状態であると、人間は幸せ
サンフランシスコ日本町に戦前から佇む曹洞宗のお寺「桑港寺」。ここで長年、理事長を務めるのが沖山泰彦さん。ほかにも住友クラブや茶道裏千家淡交会サンフランシスコ協会など様々な団体のリーダー役を務めるなど、活発な活動を続けながらコミュニティとの関わりを大切にしている。そんな沖山さんの暮らしぶりや仏教についての話も聞いた。
沖山泰彦さん

日米山桑港寺 理事長(Yasuhiko Okiyama)BaySpo 1108号(2010/02/12)掲載

ベイエリアに住むことになったきっかけ
 大学卒業後、日本で住友銀行に勤めていたのですが、サンフランシスコに本店があった加州住友銀行のロサンゼルス外国部を立ち上げるために、1970年、最初はロサンゼルスに赴任となりました。4年くらいでプロジェクトが終わり、日本に帰国できるものと思っていましたが、今度は加州住銀のデータ処理を外部委託から内部へ移行する際に起こったトラブルの修正案件に関わることになり、1974年にサンフランシスコへやってきました。この頃、本当の初期型のコンピュータが出始めで、何とかシステムを理解してトラブル解決にあたりました。そうしているうちに歴代の頭取に「沖山はまだ日本には返せない」と言われ続け、退職するまでここで勤めました。

ベイエリアの印象は?
 ロサンゼルスから初めてサンフランシスコに来た1970年代当時、ここは洗練された文化的な街だという印象を持ちました。それに比べてロサンゼルスは「大いなる田舎」だと思いました。

大学での専攻は?
 大学は東京大学の教養学部に進みました。ちょうどその頃、教養学部に教養学科が新設されまして、それがさらにイギリス科、フランス科、ドイツ科、アメリカ科、国際科、理科という具体に分かれていました。国際科からは外交官がずいぶん出ていて、雅子妃の父、小和田恒さんは私と同級生でした。
 私はイギリス科に進みました。なぜかというとイギリスに大きな興味を持っていたんです。日本とイギリスは同じ島国であり、たえず大陸からの圧力に晒されてきた環境にあります。それなのにどうしてイギリスはかつて覇権国家として大きな力を持てたのか、そういったところに関心があり、教養学科ではイギリスの政治から法律、文学まで全般的に学びました。住友銀行時代、カリフォルニアへ赴任する前には2年半ほどロンドンに駐在していたこともあります。

英語で仕事をするということ
 イギリス赴任時代からそれほど苦労は感じませんでした。今は年をとって昔ほど言葉がすっと浮かんでこないこともありますが、それでも桑港寺の議事録や会計記録は今でも英語でつけています。
 私が子供だった頃、戦争中だったので英語廃止論というのがありました。でも私は、敵国の言葉こそ理解できなくてどうする、という思いがあって積極的に勉強をしていまして、中学生1年から4年の間は、英語の教科書を丸ごと全部暗記していました。それが後々、役に立ったと感じます。

桑港寺と関わるようになったのは?
 1992年に妻が病気で亡くなったんですね。沖山家の宗派が曹洞宗だったので、日本町にあった桑港寺でお葬式を出したんです。それがご縁で、毎週日曜にお寺に通って色々なお手伝いをするようになりました。そうしたら「沖山さんはよく働くから」ということで翌年からさっそく理事のメンバーになってしまったというわけです(笑)。退職した翌年、1998年からは理事長をさせてもらっています。

仏教との関わりは?
 私は10歳のころから、がさつにならないようにという両親の方針でお茶を習っていたんです。鎮信流という流派で、先生は臨済宗のお坊さんでした。何より子供の頃は、お寺というところは美味しいお菓子があるところだと思って通っていましたね。そこで習ったのは茶道だけではなく、座禅や般若心経でした。大学生になってからある日、お寺であるお客さんをお迎えするときに、私がお茶を出すことになったことがありました。そこでお茶を立てているとき、ふと、格好よく立てよう、なんていう気持ちが私に起こったんです。ちょうどその時でした。同席していたお坊さんがお客さんに向かって、「お茶というものは、良く見せようとかいうものではなく、ひたすら無心になるものなんですよ」と仰ったんです。見事に雑念が読み取られた、と感じました。お坊さんに畏敬の念を抱くようになったのはそれからですね。そういった基があったからか、定年後には仏教を通して自己の探求を始めようと思いました。

自己探求を通して今、思うこと
 まず、自分の精神を苦しめるのは自我だということで、欲望を断ち切ろうとしたことがあります。でも、そうすると残るものは、食べて寝て排泄すること。これは人間が生きていく上で基本的で大切な部分ではありますが、これだけだと動物と何も変わらない。一度、あるお坊さんに「タバコは体に悪いよね」と聞いたことがありました。そうしたらそのお坊さんが言ったことは「他の人よりひとつ楽しみが多いからいいじゃないか」。つまり、飲食欲、財欲、名誉欲、愛欲と様々な欲があるけれど、いき過ぎた拝金主義のようにいずれかの欲が過度に高くなるのではなく、欲も調和がとれた状態であると、人間は幸せだということだと思うのです。過度の欲を捨てると楽になります。調和をとるためには、常に己の本心を問いただし続けることだろうと思います。

現在の活動は?
 茶道は、茶道裏千家淡交会サンフランシスコ協会の副理事や、災害が起きたときに日本人同士が助け合うことを目的とする団体「ジャパンクラブ」の理事・会計担当など色々な役割をさせてもらっています。住友銀行で働いていた人たちで交流するベイエリアの「住友クラブ」では会長を務めており、このグループでは毎年初夏に主にヨーロッパ旅行にも出かけています。4年前には私が中心となって企画したイギリス旅行もありました。昨年はクロアチア旅行があり、今年は東ヨーロッパに行く予定です。

日本に帰る頻度は?
 大体いつも年に1度は帰ります。ただ昨年は、サンパウロのお寺の50周年行事に参加するためにブラジルへ行ったので、日本には行けませんでした。

日本から持って帰ってくるもの
 煎茶のいいのを買ってきます。それから「やげん堀」の七味唐辛子です。

最近の日本について思うこと
 「核廃絶」を訴えるという役割を、オバマ大統領に先取りされてしまいましたね。被爆国であるのに、どうしてこのメッセージをもっと強く発信しないのだろうと思います。

インタビューを終えて
 さまざまなグループに属し、地域活動に関わる沖山さん。写真撮影の際に、「お布施はお金だけじゃない。何かをお手伝いをすること、そして笑顔を向けること、これも立派なお布施なんですよ」とやさしいスマイルを向けてくださったのが印象に残りました。

沖山さんに5つの質問!
お勧めの観光地は?
イギリスももちろん好きですが、ドイツもお勧めです。ドイツでは地元の人々が早いお昼にできたてのソーセージを食べるのですが、これが美味しいんです。

日本に郷愁を感じるときは?
日本に行くと、お茶が美味しいな〜とを飲みたくなるときですね。イギリスはウイスキーが美味しいね。

子供の頃なりたかった職業は?
お医者さん。実は東大の教養学部に入学する前の年、理系の大学を受けたことがありました。ところが試験の直前に盲腸になった伯母に3日間付き添って、試験本番で眠ってしまって落っこちた、ということがありました(笑)。

最も印象に残っている本は?
新田次郎の「八甲田山死の彷徨」です。多くの犠牲者が出た青森県の八甲田山の山岳遭難事故を題材とした小説ですが、念には念を入れることの大切さを感じました。

最近読んだ本や記事は?
朝日新聞を長く購読しているのですが、そこに載る連載小説が好きでよく切り抜きを取ってあります。本よりも切り抜きがいいのは、挿絵の素晴らしさ。お気に入りは乙川優三郎の「麗しき花実」です。中一弥さんの挿絵にはすっかり魅了されました。

(BaySpo 2010/02/12号 掲載)

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