もともと東京で歯科医をしていたShidara Chiyo(稚世)先生は、渡米後しばらくサンフランシスコに住み、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)とパシフィック大学(UOP)の歯学部で教鞭を取った後、カリフォルニアでの歯科医師免許を取得しました。6、7年前からはイーストベイのプレザントヒルにベースを移し、現在はクリニックでの患者さんの治療と、週の半分はコントラコスタ群総合病院の歯科部長として、通院・入院患者の歯科治療にあたっています。
一般歯科として歯科検診、抜歯などの口腔外科、歯周病治療などを総合的に行っている稚世先生は、「アメリカで歯科医につく学位のD.D.S.というのは、ドクター・オブ・デンタル・サージェリー(手術)の略で、歯の外科医といった意味です」と説明します。一般歯科が担当するのは、虫歯の治療や抜歯のほかにも、歯の磨き方の指導、歯列矯正など広い範囲にわたっていますが、各科の歯科専門医がおり、稚世先生も「たとえば難しい抜歯などは、患者さんのことを考えて専門医にご紹介します」と言います。
先生はコントラコスタ・カウンティ病院での歯科医としての仕事では、通院・入院患者の歯周病治療などとともに、分娩後すぐにおっぱいをうまく吸うことができない新生児の舌小帯切除の手術なども行います。舌小帯(ぜつしょうたい)というのは、舌の裏側と歯ぐきの内側をつなぐ膜のようになったもので、短いとその膜が舌の先まで付着し、程度がひどいと舌が前に出ないので哺乳力が弱くなる場合があるそうです。先生は産婦人科から連絡を受けると新生児の診察を行い、必要ならば手術(といっても、産まれたての赤ちゃんの舌小帯自体が薄いので簡単な切除です)をするそうです。「切った瞬間に、ぐいぐいとおっぱいを吸えるようになるんですよ」。
このように舌小帯の診断だけをとっても、産婦人科医、小児科医、ラクテーションコンサルタント(母乳育児の専門家)、ナースとのチームで動く病院歯科では、そのほかにも内科の疾患がある患者は飲んでいる薬によって対処が違うなど、ドクターや専門家との連携で学ぶことが多いといいます。
1歳半から100歳までの患者さんを診ているという稚世先生が、ベイスポ読者へのメッセージとして選んだ、「お子さんから老人までの歯科医」という言葉には、実際に診察年代が広いことのほかにも、「アメリカ人の先生には1個しか質問できなくても、日本語でなら5個でも10個でも質問してもらえるのでは」という先生の、「誰もが気軽に来れる歯科ですよ」という思いが込められているのだそうです。