サンフランシスコでアレクサンダー・テクニークを教えるマットさんは、シカゴ生まれで日本育ち。子供のころから、少林寺拳法や合気道などの武道、サッカー、サーフィン、ヨガなど、さまざまなスポーツの経験があります。「体を使うことをずっとやっていて、20代のころには肩や背中の痛みなどで、肩こりの貼り薬などを使うようになっていました」。そんなときにアレクサンダー・テクニークに出会い、「ピンときた」というマットさん。いつの間にかついた体の使い方の癖や緊張がバランスの崩れ・痛み・不調などの原因で、アレクサンダー・テクニークの思考を使った自由な動きを学ぶことで、不調が改善することを体感したといいます。
アレクサンダー・テクニークでは、頭と脊椎の関係が重要であるとされていて、頭と脊椎の間が硬直していることが、肩こりや四十肩、頭痛、腰痛の原因になっていると考えられています。アメリカでは演劇、ダンスなどのパフォーミングアート関係者、声楽や楽器を演奏する音楽家、プレゼンテーションやスピーチをするビジネスマンなどに広く学ばれていているそうです。アレクサンダー・テクニークでは治療ではなくレッスン、患者ではなく生徒と呼び、教える人は講師と呼ばれています。
では、実際のレッスンはどんなものなのでしょう。まず最初は解決したい問題について話をします。その後、イスに座る、立ち上がる、部屋の中をゆっくりと歩くなどして、その人の体の使い方の癖がどこにあるのかを計ります。その後、講師の手によるコーディネーションで、自由な動きを体験していくという流れになります。レッスン最後の約15分は仰向けに寝た姿勢でリラックスしながらのワークです。全身の力を抜いた状態で、講師のハンズオンと重力により、何もしないときに自分をどんなふうに使っているかに気づき、人にもともとそなわっている協調作用(プライマリー・コントロール)にしたがうことを経験していきます。
心身の緊張が取り除かれるにしたがって、慢性的なこりや痛みが治った、姿勢が良くなった、難しいヨガのポーズができるようになった、関節の使い方が変わって楽器がうまく弾けるようになった、出なかった音程の声が出るようになったというものから、プレゼンがスムーズにできるようになった、吃音が改善された、というものまでさまざまな効果がみられるそうです。また、学習して日常で使うものなので、マッサージなどとは違い良くなったら終わりではなく、効果の継続が期待できます。
レッスンは週に1、2度のペースで、5から10回で感覚がつかめるようになるケースがほとんどです。「幼い子供は何をやっても痛みなどありません。そのころの体の動かし方に近づける方法だと思います」というマットさん。90歳で今の動きが一番良いと言った人もいるそうで、もちろんレッスンは小学生にも安全。「その人の状態によって、その時のベストな動きができるのが、アレクサンダー・テクニークです」。