北大の博士課程を修了後、1965年に交換留学生として渡米した吉田先生は、アメリカとイギリスの有名大学でリサーチの仕事に従事した後、43歳の時に「臨床をやりたい!」と一念発起。73年にスタンフォード大学へ来たのをきっかけに、76年にベイエリアで開業をされました。開業から40年を経過するベテラン先生の存在は、「海外で子育て」という不安を抱えるママ達にとって、まさに救世主。「具合の悪い子供を連れてハラハラした様子で訪れるママが、診察を終え笑顔になって帰る姿を見送る時が至福のひと時です」と先生は目を細めます。
吉田先生は、近年よくに耳にする「マインドフルネス」に注目し、ご自身の生活に取り入れているそうです。マインドフルネスとは、「今ここ」に起こっていることに集中し、そのままを受け入れるという心理的な過程であり、呼吸や瞑想といった訓練を通じて実践する方法。大きく息を吸い込み、吐き出すのを2、3回繰り返すだけで、心を落ち着け、批判や評価をせずに受け入れることができるようになるといいます。「今ここ」に起こっていることをありのままに受け入れる効果は、心配やストレスを減らすため、うつ病などの精神疾患の予防と治療に繋がるのだそうです。
「育児というのは本当に大変ですよね」と、育児の負荷を親身に理解している先生は、クリニックを訪れるママから相談を受けることもしばしば。育児に疲れ気味なママへのアドバイスは、子供と接してイライラしてしまったら、「ママのタイムアウト」をすること。反射的に叱る前にほんの少し時間を作り、大きく息を吸い込み、吐き出す。呼吸に集中する瞑想によって、感情的な対応に歯止めがかかり、子供を受け入れることができます。そうして優しく接することができるようになると、自然と子供の態度にも変化が現れるのだそうです。特に、赤ちゃんには親の感情が伝わるので、カッとなったり心配しすぎたりするママのストレスを察した赤ちゃんが泣きはじめてしまうという負の連鎖も起こりえます。子供が5歳位に成長して来たら、遊び感覚で一緒に呼吸・瞑想をすると、双方に効果が生まれるので、ぜひ実践してみてはいかがでしょうか。

マイドフルネスの効果は、うつ病などの精神的なトラブルの対処だけでなく、生産性やクリエイティビティが向上するとまで言われており、アップル、グーグル、インテルなどシリコンバレーの企業でも取り入れられているそうです。育児の合間に、マインドフルネスを銘打った呼吸瞑想クラスやヨガに参加するのもいい気分転換になるでしょう。とはいえ、クラスに参加する時間を作るために無理をするのは逆効果。家庭でも簡単にできる「呼吸に集中」というプロセス繰り返すことで、次第に心が鍛えられていき、「今ここ」に意識を向けることができるようになるといいます。吉田先生は、「育児から得られる喜びや幸福に逆行する育児のストレスを、マインドフルネスを習慣化させることで回避し、より健康な心で育児を楽しんで欲しい」と微笑んでいました。