皆様は「情報セキュリティ」という言葉を聞いた時、まずウイルス対策ソフトを思い浮かべられると思います。ここでいうウイルスとは、コンピュータウイルスのことを指しますが、2003年頃に世界中で感染が広まり、ITシステムがダウンする等の事態が発生したことを記憶されている方も多いでしょう。最近はコンピュータウイルスに関する報道をお聞きになることが少ないかも知れませんが、これは天然痘のようにウイルスが撲滅されたのではなく、パソコンの動作不良を発生させて騒ぎを起こす等、目立つことを目的とした活動から、知らないうちに銀行の暗証番号を入手してお金を不正に引き出す等、経済的な利得を目的として活動が潜行化するようになっているからです。
ウイルス対策ソフトの世界市場では、米国のシマンテックのシェアが最大であり、マカフィー、トレンドマイクロと続くようですが、日本市場に限れば、ソースネクストという日本企業が2007年の販売本数で第一位になったそうです。
ウイルス対策ソフトの構造は、単純化して言えば、世の中に新しく出回ったコンピュータウイルスの「形状」を、ソフトウェアの中にあるネガティブリストに掲載し、パソコンの入り口で、このネガティブリストとマッチングしたウイルスをブロックするものです。このためにウイルス対策ソフトの企業は、世界中の最新ウイルスを常時調べているわけで、比較的労働集約的な製品と言えます。ソースネクストは開発に要する人件費を抑制するために、製品開発拠点をインドに置いています。
人件費の抑制はめずらしい話しではありませんが、このソースネクストがユニークだったのは、最初の製品購入費用だけ支払えば、WindowsのOSサポート期間の間は更新料無しというビジネスモデルを採用したことです。御存知のように通常のウイルス対策ソフトは、毎年更新料を支払い、ソフトウェアをアップデートしていく必要がありますので、市場から新鮮に受け止められたわけです。更新料無しでビジネスが成り立つのかという懸念もあるかと思いますが、VISTAのサポート期間が販売開始から約10年ですので、例えば、個々のユーザーの使用期間を10年と設定し、毎年一定人数(=α人)が購入していくという前提で計算してみると、長期的には顧客総数は10α人で安定することとなり、売り上げが確保できるモデルであることがわかります。顧客の数が一定規模に達しさえすれば、ネガティブリストはすべての顧客に共通するものなので、規模の経済も働くことになり、販売量が増えるほど、安い製品価格でも利益があがることになります。
これは「コロンブスの卵」のような話で、ソースネクストはその点に目をつけて、消費者への訴え方を非常に上手に行ったということでしょう。
ただ、情報セキュリティ対策といった場合に、ウイルス対策ソフトを購入すれば済むわけではなく、先にも申し上げたとおり、最近は経済的利得を目的としたものが増えてきていることから、いろいろ注意しなければならない点があります。特に、いわゆるソーシャル・エンジニアリングと呼ばれるものには注意が必要です。このソーシャル・エンジニアリングとは、人間の心理的な隙につけ込んで重要な情報を入手する方法のことです。
ソーシャル・エンジニアリングの一つとして、電子メールなどを悪用して重要情報を詐取するフィッシング詐欺と呼ばれるものが存在しており、米国でのフィッシング詐欺による被害総額は年間約1000億円に達するとの調査結果もあります。一般的に、日本よりも米国の方がフィッシング詐欺の被害額は大きいと言われているのですが、米国については、ソーシャルセキュリティナンバーが盗まれた際の1件当たりの被害額が大きくなる傾向にあることが、その理由の一つではないかと推測されます。ちなみにフィッシングの英語の綴りは、魚釣りを意味するFishingではなくPhishingです。
このような被害を避けつつ、安全にITを利用していくためには、私達一人一人が、ITの利用に際しての留意点を十分理解した上で、適切に対処していく必要があります。
留意すべき点と対処策を幅広く周知していく観点から、日本の経済産業省はタレントの上戸彩さんをキャンペーンキャラクターとした「『Check PC!』キャンペーン」を、本年1月16日から3月末まで行っています。このキャンペーンのホームページでは、危険シミュレーション体験やパソコン環境別リスク診断なども用意されていますので、皆様も一度試されてみてはいかがでしょうか。同キャンペーンのホームページは下記のとおりです。
http://www.checkpc.jp
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