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BaySpo 1006号(2008/02/15)掲載 |
国際家電ショーとMacworldで脚光を浴びた「融合」の動き
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 中島 丈雄 |
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中島丈雄(なかじまたけお)
ジェトロ・サンフランシスコ・センター調査部。1992年JETRO入社、情報システム室、中小企業庁国際室、経済産業省米州、JETROニューヨーク調査部、海外調査部北米課などを経て、2006年10月より現職。東京都出身。 |
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1月に、ラスベガスで行われた国際消費者家電ショー(CES)とMacWorld。読者の方の中にも参加された方は多いと思いますが、このイベントは毎年その年のエレクトロニクス業界・市場・技術を見通す大変重要な場になっています。CESには世界中から2700超の企業の出展があり、2万点の新製品の発表があります。会場は、幕張メッセの全8会場を合わせた面積のさらに3倍。CESに参加して良い成果を挙げたいなら「歩きやすい靴をはけ」とさえいわれます。MacWorldの会場の熱気も、CESに勝るとも劣りません。両イベントから指摘できるキーワードはいくつかありますが、ここでは「融合」(anytime, anywhere)を取り上げてみましょう。現在米国の家庭には、白物家電を除いて平均25品のエレクトロニクス製品があると言われます。DVDプレーヤー、TV、音楽プレーヤー、デジカメ、カムコーダ、パソコン、携帯電話、ゲーム機器、PDA、GPS・・・。さしずめ「我が家はガジェットだらけ」という状態です。そこから当然、これらを「いつでもどこでも、観たい聞きたい使いたい共有したい」という欲求が出てきます。人々の生活空間(家庭、オフィス、友人・趣味、移動手段、出張や旅行先、国内・海外)は益々広がる一方、コンテンツはTV番組、動画、DVDやCDソフト、写真、音声、統計・・・と広がり、媒体もネット、地上波、衛星、ケーブル、ワイヤレス、メモリーなど実に多様化しています。しかしこれらはまだ限られたネットワークしか構築されておらず、規格や基準もまちまち、双方向性、速度、使い勝手、コスト、安全性の点でもanytime, anywhereには遠いのが実情。欲求と現実の間にギャップが生じています。アップル、Comcast、HP、スリングメディア、ポラロイド、モトローラなどは、この動きを先取りする試みを前面に出していましたし、日本企業の中にも事例が見られました。パソコンを自動車に組み込むAzentekのような例もありました。
Anytime, anywhereを考える際、2つの段階に分けるとわかりやすいかも知れません。「つなげる」段階と「つながった後」の2つです。「つなげる」の段階では、自由度の点でワイヤレス接続化は不可欠でしょう。異なる機器、周波数、距離を越えてスムーズにつなげる。このことは業界関係者も強く認識しているようで、CESのカンファレンスのいくつかは、ワイヤレス化に対する取組みについてでした。日本の「PUCC」という試みもその一つで、BBC放送は「2008年CESの注目技術の一つ」にこのPUCCを挙げています。ここでのカギは、トータルコストが安いか、今持っている機器を使えるか、使いやすさ・操作の統一性はあるか、ソフトのアップデートは不要もしくは自動か、情報は安全か・・・といった点でしょう。自社製品・規格しか使えないクローズドな囲い込みは、これまでも失敗を繰り返してきましたし、今後もそうなるでしょう。
ビジネス的な観点からは「つながった後」の方が重要だと思います。ここはコンテンツ、ハード、ソフト、通信などの企業のいずれにもビジネスの芽が生まれます。ただしハードウェアはどちらかと言えば1回切りの支出にとどまりがち(しかも価格下落が激しい)なのに対し、コンテンツや通信などの「サービス」は継続的にお金が落ちやすい。一例が飛行機の中です。バージン・アメリカでは、エコノミークラスにもかなり立派なマルチメディア環境を導入しています。無料・有料のチャンネルが100以上、音楽チャンネルは3000、ショッピングや離れた席の人とのメールができたりします。パソコン用の電源口やUSB接続口もある。間もなく機内でインターネット(有料)も使えるようになります。移動のための退屈な空間ではなく、家、オフィス、旅行先、飛行機をシームレスにつなげ、anytime, anywhereに近づける試みだといえます。映画などのコンテンツはディレクTVが提供しており、有料ビデオを買えば同社にお金が落ちる。インターネット接続を申し込めば、通信キャリアにお金が行く。買物、旅行、グルメ、教養などにもビジネスが生まれ、広告や手数料モデルも増えるでしょう。コンテンツには、日本のアニメや「ためしてガッテン」などの番組がありましたが、コンテンツ製作者(権利保有者)にも、お金が回る。「周辺サービス」も有望です。決済システム、機器やソフトの垣根を越えたアフターサービス、メンテナンス、新しいユーザーインターフェイス、障害者向けサービス、防犯・セキュリティ・・・などです。「融合」は単なる一過性の流行ではなく、いわば不可避な方向。多くの人にビジネス機会をもたらすことになると見込まれ、ここをうまく捉えられるかが重要になってくるでしょう。
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