「ビジネスエンジェル」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。「エンジェル投資家」とも呼ばれるそうですが、一般的には、ベンチャー企業の創業期に資金を提供する富裕個人のことを指します。資金提供だけではなく、経営陣の一人としてマネジメントに参画することが多いようですし、最近は100人程度の投資家の集まりとして組織化されているようです。
ベンチャー企業に資金を供給する主体としては、ベンチャーキャピタル(VC)がよく知られていますが、ビジネスエンジェルはベンチャー企業の立ち上げ時点のEarly Stageで投資するのに対して、VCは立ち上げ時点からしばらく経過したLater Stageで投資を行うと言われています。
このような説明を聞くと、ビジネスエンジェルの方が歴史的に古く、VCの方が歴史的に新しいように思ってしまいますが、実際には逆で、VCの方が歴史的に古いそうです。
米国のVCの起源には諸説があって、第二次世界大戦前まで遡るとも言われていますが、現在の産業形態が確立されたのは第二次世界大戦直後のようです。
当初、VCはEarly Stageのベンチャー企業にも投資をしていたようですが、米国の法律改正によって、1980年代ぐらいから年金基金等から巨額の資金がVCに流入するようになり、それに伴って、1企業に対する投資額が引き上げられ、(年金基金等の意向も反映した)安定的運用を志向した結果、多額の資金を必要とし、またリスクが比較的少ないLater Stageにシフトしていったようです。
ビジネスエンジェルは、このようなVCの投資行動の変化によって生じたEarly Stageの資金的空白を埋めるために、1980年代後半ぐらいから発生してきたと言われています。
あるビジネスエンジェルの組織の方に「VCの運用する資金が大きくなっても、VCで働く数少ないキャピタリストがカバーできる企業の数には限界がある。したがって、VCは大きな金額の投資を少数のリスクの少ないLater Stageの企業に行うようになっている。しかしながら、ビジネスエンジェルが100人ぐらい集まった組織を構成すれば、個々のメンバー(メンバーになるには成功した起業家である等の条件が設定されている)の知見を活用しつつ、場合によっては個々のメンバーが経営陣に参画し、リスクの高いEarly Stageの企業に対する少額の投資を運用していくことができる。」という話を伺い、なるほどと納得したことがあります。
ところで、ビジネスエンジェルは一体どのぐらいの投資をしているのでしょうか。ニューハンプシャー大学のCenter for Venture Researchの調査によれば、2006年の米国のビジネスエンジェルの投資実績は、約5万1000件に対して総額256億ドルとのことですが、Thomson Financialの調査によれば、2006年の米国のVCの投資実績が約3500件に対して総額263億ドルですので、このニューハンプシャー大学の調査結果に疑問を呈する人々も少なくないようです。
ただ、いずれにしても、米国でビジネスエンジェルが活発に活動し、ベンチャー企業への資金供給面において、大きな役割を果たしていることは間違いないと思います。
ビジネスエンジェルというと、何となく「天使」のようにどんどんお金を出してくれそうに思いますが、実際にはかなりシビアなようです。
シリコンバレーのあるビジネスエンジェルの団体は、Webサイトで資金要請の申し込みを受け付けていますが、毎月約100件の申し込みがある中、厳しい審査を経て、メンバーの個人投資家の前でプレゼンさせてもらえるのは、2〜3件程度だそうです。
それ以外の97〜98件はプレゼンの機会すら与えられないわけで、また運良くプレゼンまでたどり着いたとしても、資金拠出に手を挙げるメンバーが現れなければ、何も得られずに手ぶらで帰ることになるわけです。
最近は、いわゆる利益追求だけではなく、社会貢献や環境対策といった側面をも勘案するビジネスエンジェルの団体も出てきていますので、当地で起業を考えられている方は、検討してみるのも一案かも知れません。ただ、投資を受けると、おそらく経営陣にビジネスエンジェルが参画することになりますので、それが良いのか否かは、ケースバイケースだと思いますが。
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