ほんの1〜2年前まで、トウモロコシを原料としたエタノールは、ガソリンを代替・補完する燃料として期待されていましたが、最近は負の側面を指摘する声が目立っています。穀物の価格を押し上げる一因だ、農地確保のために森林伐採が進む、燃料の生成や運搬などを含めたトータルで見ると二酸化炭素(Co2)排出量はガソリンと変わらない・・・など。通称「2007年エネルギー法」は、2022年までにエタノール燃料を現在の6倍の360億ガロンにまで上げることを定めていますが、このうち210億ガロンは、食物原料ではない「先進バイオ燃料」とすることを定めています。
イリノイ州のコスカタ(Coskata)は、非食物系原料からエタノールを生産する企業として注目されています。ゼネラルモーターズ(GM)は、08年1月のデトロイト・モーターショーで、コスカタからテスト車用の燃料供給を受けることを発表しました。GMが自動車関連業界以外の企業と業務提携を結ぶのは20年ぶりだそうです。コスカタは、シリコンバレーの投資企業コスラ・ベンチャーズらの全面的サポートを受けて06年7月に設立されました。同社の売りの第1は「世界中どこでもエタノールを生産できる」こと。産業廃棄物、一般ゴミ、古タイヤなど、様々な原料から燃料を生成します(写真)。原料1トンから100ガロンのエタノール生産が可能で、これはトウモロコシ(1トンの原料から98ガロン)とほぼ同じで、さとうきび(1トンの原料から20ガロン)を大きく上回ります。
第2の売りは低い環境負荷。製造過程のエネルギー消費量1に対する生産エネルギーの割合は、ガソリンが0.84なのに対し、コスカタのエタノールは7.7に達するとのこと。また1ガロンの燃料生成過程での水の使用量は、ガソリンが44ガロン、トウモロコシ原料は3〜5ガロンに対して、コスカタの製法では1ガロン以下となっています。
同社のエタノール生成プロセスは、ガス化装置で有機物の化学結合を分解し、シンガス(水素、一酸化炭素、二酸化炭素の混合ガス)を作り、これをバイオ・リアクターに送り込み、微生物に一酸化炭素と水素を食べさせエタノールを生成。エタノール分離器でエタノールと水に分離し、純度99.7%のエタノールを作るというもので、一連の過程での環境負荷が低く、また残留水も再利用できます。
第3に低コスト。従来製法のトウモロコシ原料を使ったエタノールの生産コストは、政府の補助金を含めると1ガロン当たり1ドル10セント程度で、補助金を差し引くと2ドル10セント前後になりますが、コスカタのエタノールは1ガロン1ドル以下という低コストを実現しています。生成プロセスが効率的である上、高価な酵素や化学薬品を使わないこともコスト削減に役立っているようです。
コスカタ創設者の1人ラシン・ダッタ博士は、インド工科大学(カンプール校)を卒業後、プリンストン大学で化学技術の博士号を取得。「ディスカバー・マガジン」の98年環境技術大賞、同年「大統領グリーン・ケミストリー賞」などを獲得しています。そういえば、出資者の一人ビノード・コスラ氏も、インド工科大学(デリー校)出身。サンマイクロシステムズの創業者の1人として活躍した著名な在米インド人です。米国の新しい環境技術をベンチャー企業が作り出し、そこに多くの外国生まれの人々が関わっているのは、米国ならではと言えるでしょう。
コスカタは08年後半には、パイロット工場を建設。11年までには年間1億ガロン規模の大工場を建設し、一般向けに販売する計画です。新エネルギー法が定める非食物系エタノールの生産量が11年に2億5000万ガロンですから、この半分以上をコスカタが生産するという野心的な目標を立てています。
(中島丈雄、大和田貴子)
▲ これらの原料からポリタンク4つ分の燃料ができる
写真提供:Coskata
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