最近、私達の生活に大きな影響を与えているものとして、ガソリン価格の高騰を挙げることができます。ガソリンの値上がりの背景として、ニュースでNYMEXとか商品相場/先物価格といった言葉が出てきますが、これは一体どういうものなのでしょうか。
簡単に申し上げれば、NYMEXとはNew York Mer
cantile Exchangeという、ニューヨークにある商品先物の取引を行う取引所のことであり、商品相場/先物価格というのは、こういった取引所で行われた商品先物取引での価格のことを意味します。
余談ですが、米国で2001年に発生した同時多発テロによって、世界貿易センタービルが倒壊したのですが、ビルの地下にNYMEXがあったため、NYMEXでの取引がしばらくできなくなり、世界中に大きな懸念が広がったことがあります。
そもそも、「商品先物取引(英語ではCommodity Futuresと言います)」は、野菜や果物を八百屋で購入するような「現物取引」とは異なり、将来のある時点での予想価格の下、その将来時点での売り注文や買い注文を行うものです。
何故このような取引が必要なのかと言えば、例えば、製鉄会社が今後1年間の販売・生産計画を立てる場合、当然、原料である鉄鉱石などの価格を将来にわたって確定した上で試算をしようとしますが、現在の価格が将来も同じであるとは限りませんし、誰にも予測できません。こういった時に、例えば鉄鉱石の先物市場があれば、来年の鉄鉱石について、市場で買い注文を行い、欲しい量の鉄鉱石について購入価格を確定しておくことができるわけです。
このケースの場合は、価格が高いか安いかということよりも、不確定要素を排除できるところがポイントであって、ビジネスを行っていく時に必ず付きまとう価格変動のリスクを、商品先物取引を通じて低減しているのです。
先に申し上げたNYMEXで取引が出来なくなったとき、世界中が懸念したのは、1日24時間のうち、一定時間、ビジネスのリスクを低減するための取引をNYMEXでできなくなったからです。当時、欧州、アジア、米国といった世界各国の取引所が、それぞれのビジネスアワーに取引を行っており、時差の関係で、世界中どの国からでも、24時間取引できていたのですが、その一部に空白が生じたわけです。
実は、「商品先物取引」と「現物取引」の間の相違としては、先に申し上げたモノのやり取りが行われる時点の違いだけではなく、商品先物取引は差金による決済ができるという点があります。
この差金決済とは、例えば、今日の時点で、1年後に原油1バレル当たり130ドルで買う注文を行ったとして、1ヶ月後に同じ将来時点の原油価格が1バレル当たり150ドルに上昇していたとします。この場合、買い注文をしていた原油を1ヶ月後に売ることができれば、1バレル当たり20ドルの儲けを現金で受け取ることができます。これが「差金決済」です。
このような差金決済を認めているのは、取引への参加者の全員が最終的に商品そのものを受け取ることができるわけではないこと、裏を返せば、先物取引は投機的な理由などで参画する者の存在を前提としているということです。
例えば、原油取引を例に挙げましょう。皆様が原油の先物取引をして、1年後に1バレル買う注文をしたとします。最終的に1年後に原油を1バレル受け取ることができる方はどのぐらいいるでしょうか。石油会社であればともかく、普通の会社や消費者は、原油をもらっても処理に困るだけです。(日本の取引所で扱われている中でロットの小さいものとして「冷凍エビ」がありますが、それでも最小取引単位が約60kgです。60kgのエビは近所に配っても消費し切れないと思います)。
だからといって、石油会社だけで原油の取引をしようとしても、業界の中での価格予想は同じ傾向になるでしょうし、参加者の数が限られてしまいます。市場というものは、多様な参加者がいろいろな情報を元に、様々な予想をすることによって、初めて一定の均衡価格に到達することができるのです。
つまり、市場を市場たりうるものとするためには、参加者を多様化する必要があり、参加者を多様化するためには、実際に商品を受け取らずに市場を離脱できる、すなわち差金決済という取引終了手段を用意しなければならなかったわけです。
もちろん、これには副作用もあります。先ほど申し上げた「投機」に起因する問題です。例えば、現在の原油価格高騰についても、投機ではないかとの意見があることは皆様も御存知の通りです。
ここで原油価格高騰の要因を分析するつもりはありませんが、ビジネスリスクの低減という目的と投機に起因する諸問題をバランスさせていかなければならないというのは、いわば商品先物取引の宿命なのかも知れません。 |