買い替え需要を喚起する上での3つの課題
しかしそれには、懸念材料がいくつかあります。第一に米国消費者一般に見られる保守的な傾向で、ピュー・リサーチセンターの調査(06年12月)によると、「次の製品は必要(necessity)ですか」との問いに対し、携帯電話を「必要」と感じている人は49%にとどまりました。徐々に高まっていくでしょうが、それでも低い数字です。ついでながら、同調査ではケーブルテレビを「必要」と感じている人は33%、高速インターネットは29%、薄型テレビはわずか5%でした(自動車や洗濯機は90%超)。先進国とはいえ米国消費者のハイテク志向は総じて低く、ユーザーに新しい(できれば高価な)携帯電話やプランへの買い替えを促すのは、なかなか難しい課題と言えます。
第二にサービス提供側の問題。「契約期間のしばり」に代表される固定的なサービス体系など、各種の消費者調査でも、携帯電話キャリアに対する評価は芳しくありません。例えば2008年第1四半期の「米国消費者満足度指数(ACSI)」によると、満足度の高いサービスは、宅配(82点)、レストラン(80点)、医療・福祉機関(78点)でしたが、低いのは、携帯電話サービス(68点)、ケーブル・衛星テレビ(64点)、航空会社(62点)などとなりました。
携帯電話、ケーブル・衛星テレビ、航空会社に共通して言えるのは、企業間の競争が激しい市場で、本来消費者が強いはずでありながら、現実は消費者が好みに合ったサービスを自由に選ぶのが難しい、サービスの変更やキャンセルの融通が利きにくいなど、利用者が市場競争の恩恵を十分に得ていない点ではないでしょうか。C-NETの読者による携帯電話キャリア評価(2008年5月時点)でも、主要キャリアは10点満点で5.9〜6.9点にとどまり、上記ACSIと似た結果となりました。言い換えれば、ここを改善させることができると、消費者の魅力は大いに増すことになります。
第三に世代格差と所得格差が大きいことです。世代別に見ると、携帯電話を「必要」としているとの回答は、18〜29歳(57%)→30〜49歳(53%)→50〜64歳(44%)→65歳以上(38%)と、年齢とともに明らかに低下します。この傾向は米国に限った話ではないでしょうが、現役世代と言ってよい50〜64歳でも44%にしかならないのは、米国消費者の保守的な性質の一端を示しています。所得による傾向もはっきりしています。年間所得10万ドル以上の富裕層は、68%が携帯電話を「必要」とみなしていますが、5〜9.9万ドル(50%)→3〜4.9万ドル(47%)→3万ドル以下(40%)という具合に、やはり所得が下がると携帯電話への必要性も下がるという傾向が明らかです。
年齢や所得による違いは容易には変化しませんから、年配層や低所得者層の市場開拓には時間がかかるでしょう。これも逆に言えば、相当可能性が残っているということです。65歳以上の層では、パソコン(25%)よりも携帯電話(38%)に対する必要性の方が高くなっているのも好材料。今後は安価で柔軟な料金体系やサービスの導入、操作性に優れたわかりやすい携帯端末を開発することなどが、益々重要になってくると言えるでしょう。
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