BaySpo 1028号(2008/07/18)掲載
熾烈な国際標準化競争
ェトロ・サンフランシスコ・センター 頓宮 裕貴
頓宮 裕貴 (はやみ ゆたか)
1988年、東京大学工学部計数工学科卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。情報セキュリティ政策をはじめ、さまざまな分野での業務を経て、2007年6月よりJETRO SFセンターに赴任。BICの責任者として、日本ベンチャー企業の米国市場参入のサポート。その他、シリコンバレー情勢調査分析等を担当。

 「標準(Standards)」という言葉を聞いたことがあると思います。規格とも言います。放っておくと多様化・無秩序化してしまう事柄を少数化・秩序化することが「標準化」であって、標準化によって制定される取り決めが「標準」です。


 以前聞いた話では、紀元前に秦の始皇帝が中国を統一した時に、地域によってバラバラだった長さや重さの単位などを統一化する度量衡を定めたのが、いわゆる標準化の始まりだそうです。ちなみに、日本で度量衡が定められたのは、西暦701年の大宝律令が最初であると考えられています。
 私達は日頃の生活において標準の恩恵を受けているのですが、あまりにも当たり前になっていて、その存在に気付かないものです。実際には、乾電池の単I、U、V等の区別や電球のサイズなどの互換性を確保するためのものから、シャンプーとリンスを区別するために、プラスチックボトルの側面に刻まれている突起、視覚障害者用の点字ブロックの配列など、私達の生活の利便性・安全性を高めるためのものまで、さまざまな標準が存在しているのです。


 ここで本題に戻りますが、何故、熾烈な国際標準化競争が起きているのでしょうか。それには若干の補足が必要となります。


 歴史を紐解くと、まず、各国が制定した標準を国際的に整合化させるため、さまざまな国際標準化機関が創設されました。ISO(国際標準化機構)という名前を聞いたことがあると思いますが、このISOは1947年2月にジュネーブに設立された国際標準化機関の一つであり、このほかにもIEC(国際電気標準会議)やITU(国際電気通信連合)などいくつかの国際標準化機関が存在しています。


 こういった国際標準化機関では国境を越えて互換性を確保するための国際標準が制定されてきたのですが、国際標準の位置付けを大きく変貌させたのが1995年に発効したWTO(世界貿易機関)のTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)です。

 このTBT協定の中には、「加盟国は、強制/任意規格を必要とする場合において、関連する国際規格が存在するとき又はその仕上がりが目前であるときは、当該国際規格又はその関連部分を強制/任意規格の基礎として用いる」という条項が含まれています。

 これだけでは何のことか分かりませんが、簡単に言えば、国際標準が存在している時には、各国は独自の標準を作るのではなく国際標準を採用せよ、ということです。つまり、どこかの国の企業が先んじて自社製品をベースにした国際標準を制定することに成功すれば、その国際標準を変えない限り、他の企業は製品を国内外で販売する際に不利になる可能性があるということです。

 実際にそのような事例は発生しており、良く知られている例としては、JR東日本が日本企業の作ったICカードを調達しようとした際、当該日本企業の方式が国際標準になっていないことを理由に、海外企業が異議申し立てをしたことがあります。

 なお、「強制規格」というのは法律等で使用することが強制されている標準のことなのですが、強制規格に該当する国際標準を獲得すれば、国際的な販売において非常に有利な立場になることは御理解いただけると思います。

 このTBT協定の関連条項を最大限活用して、国内産業の国際競争力を強化しようとしているのがヨーロッパです。先に申し上げたISO等では、国際標準の採択は加盟国による多数決で行われるのですが、1ヶ国につき1票であることから、現在27ヶ国となっている欧州連合は、事前に欧州域内の標準案を合意していれば、圧倒的優位を持って採択プロセスを進めることができるわけです。

 米国も、昔は市場における自由競争の中で勝ち残ったものが標準であるとの立場を取っていたのですが、TBT協定によって、たとえ米国の企業が国際的な自由競争で勝ち残っても、別の国の企業が国際標準を作ってしまえば、米国の企業が国際市場から駆逐されるおそれが出てきたため、米国標準をベースとした国際標準制定に向け、さまざまな活動・支援等を行っています。

 例えば、米国の連邦機関が標準を制定する際には、米国の標準化団体が作成した標準を積極的に活用することを求める「連邦技術移転促進法(1995年)」を制定したり、主要国に駐在する米国大使館職員を基準認証担当として任命し、標準化に関わるさまざまな活動に当たらせたりしています。

 翻って、日本はどのような状況なのでしょうか。一言で言えば、以上で申し上げたような国際標準化活動の重要性があまり認知されているとは言えず、例えば、ISOに対する国際標準提案数は全体総数の7%、国際標準を策定する委員会の幹事引き受け件数も、欧米主要国に大きく引き離される等、経済力や国際競争力に見合った国際標準化活動はなされていないようです。更なる奮起を期待したいと思います。

有澤保険事務所

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