サンフランシスコ市の北約50kmにあるバレホ市が、財政の悪化から破産申請をしました。7月中には、連邦破産裁判所が破産を認めるかどうかの判断をする見こみです。94年のカリフォルニア州オレンジ郡の破産以来の大型案件で、市レベルでは91年のコネチカット州ブリッジポート市の破産とならぶ規模。非常に珍しいケースです。
最初にこのニュースを耳にしたとき、サブプライム・ローン問題の影響か、自治体の不動産運用の失敗が原因かと思いました。実際バレホ市は景気悪化による税収減によって、08、09会計年度には1600万ドル(約17億円)の赤字となることが確実で、抜本的改革がなければ市の運営が破綻するとしています。バレホ市の属するソラノ郡では、08年第1四半期の住宅さし押さえ件数が2090件にのぼり、前年同期から2倍以上増えました。固定資産の譲渡税もこの2年間で56%減少。「さし押さえ住宅専門バスツアー」も頻繁に組まれるほどです。しかし調べてみると、他にもやっかいな問題が背後にあるようです。
第一に市職員(特に消防・警察)の高い給与、ついで彼らへの手厚い年金制度、第三に「市は本当に財政破綻しているのか」という問題です。内容がややセンシティブなので、中立に書きたいと思いますが、第一に給与の点は、2000年に結ばれた市との労働契約にしたがうと、08年のバレホ市警察官の平均給与は年12万ドル超、消防士は13万ドルにもなり、市の歳入の7割が彼らへの給与にあてられています。08年3月に市と組合は、警察官と消防士の8%の給与カットやポスト削減などで合意しましたが、財政悪化を食い止めるには不十分でした。
第二に過去にさかのぼって改定された手厚い市職員年金制度です。これが事実上破綻の最大の理由でしょう。同市の警察官は30年間働いて50歳で引退すると、その後毎年それまでの年収の90%相当額を受給できます。旧労働規約では60%支給でしたが、2000年に結ばれた新労働規約で大幅にアップされました。これを聞いて「どこかで聞いた話」―米国の自動車メーカーが長年苦しんできた年金や医療保険の「レガシー(遺産)」問題を思い浮かべる方もいるでしょう。マネー誌シニアライターのレベル氏は次のように書いています。「株式市場と住宅市場が好調だった時期、政治家はあまい年金制度を公約し続けた。しかし、市場は急落した。ピュー州研究センターによると、これら年金支給を保障するには、全米の州資産は現在3600億ドルも不足している。問題は、いったん年金の給付拡大で合意してしまうと、撤廃も変更もできないことである。これは憲法で保障された権利だ。しかし1つだけ方法がある。それが『破産』だ。バレホ市とおなじ問題を抱える自治体はほかにいくつもあり、事態の推移を注視している―」。
第三に「市は破産状態にあるのか」という問題です。自治体の破産がめずらしいのは、住民らに対する悪影響が大きく、それが認められにくいからでもあります。あるレポートによると、自治体の破産が認められるには、a・支払い不能な状態であること、b・州政府が破産を認めること、c・関係者との誠実な交渉の結果であること、d・債権者の同意があること、同意がえられない場合でも再建計画が債権者の最大利益を確保し、かつその実現可能性があること、などが必要だとのこと。レベル氏が述べているような労使合意を白紙に戻すことが真の目的だとすると、上記のa〜dの要件をクリアするにはいずれも厳しいかもしれません。17億円という負債も、オレンジ郡の1800億円という巨額の負債にくらべて小さい。
バレホ警察労働組合のマット・マスタード氏は「市には資金がある。コスト削減や増税の余地もある。破産は不要だ。われわれはこれまでに1000万ドルもの譲歩をしてきた」と反発しています。
市民の反応はさまざま。報道によると、あるフィリピン系男性は「消防士を減らせば住宅の火災保険料があがり、不動産査定も悪くなる。警察官が減れば治安も悪くなり、不動産価格はさらにさがってしまう」と大幅なリストラに反対の立場。一方、別の市民は「かつて破産宣告をしたオレンジ郡も今は見事に立ち直っている。負債を凍結し、問題を解決できるなら破産する価値はある」と前向きな姿勢を示しています。
執筆協力・形山昌由 |