BaySpo 1032号(2008/08/15)掲載
米国証券市場で存在感を増す中国企業
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 次長 荏原 昌
荏原 昌(えばらまさし)
2003年日本貿易振興会(ジェトロ)入会。ジェトロ入会以前は民間企業(システムインテグレーター)で新規事業企画、ベンチャーへの投資、ジョイントベンチャーの立ち上げ等を担当。2008年3月からサンフランシスコセンター次長。新潟県出身、中央大学理工学部卒業。

 本号が発行される頃日本はお盆休みの真最中、日本とのやり取りも減ってベイエリアの企業の方々もホッと一息ついていらっしゃるのではないでしょうか。さて、お盆など法要の講話や結婚式の挨拶に度々使われる「上り坂、下り坂、まさかの坂」という言葉があります。人生には良いとき(上り坂)も悪いとき(下り坂)もある、加えて突発的に訪れる幸運や不幸を「まさかの坂」と言い、そういった際にきちんと対応できる準備や心積もりがあるか、ないかで人生が変わるという風に使われることが多いようです。さすがに先人達はよく言ったもので、この言葉は人生だけではなく、実は経済や株式市況についても当てはまるものと考えています。例えば、過去30年間くらいを振り返ってみると米国の株式市場は概ね10年をひとつのサイクルとして上昇局面と下降局面を繰り返してきています。具体的には80年代後半をピークとする不動産バブルとその崩壊による下落、90年代後半のドットコムバブルとその崩壊による停滞、ようやくドットコムバブルから立ち直りの兆しが見えたと思ったら今度はサブプライムローンと原油高による景気後退です。このところの「まさか」を振り返ってみると、インターネットの爆発的な普及(個人的には「まさか」インターネットで航空会社から直接安いチケットが買えるようになるとは思っていなかった)、9・11テロ発生、イラク戦争の勃発、サブプライムローン、原油高といったところでしょうか。


 社会情勢や経済状況が変動するたびに日本企業は少なからず影響を受けつつ、ぐっと持ち堪え、一定の力を示している姿は如何にも心強い限りではあるものの、最近ではやはり中国やインドのパワーには目を見張らざるを得ないのも事実です。既にご承知の方も多いと思いますが、2008年第2四半期におけるベンチャー企業の新規株式公開(IPO)数がゼロとなったように、ベンチャーにとっては株式市場が冷え込んで上場という出口が見え難くなっている一方、米国の証券市場で中国企業の存在感が増してきています。現在(2008年7月末)、NASDAQ、NYSEや店頭公開市場も含めると株式を上場している中国企業の数は優に100社を超えているようです。例えば、IT分野ではご存知の方も多い検索サービスの百度(Baidu.com)、ポータルサイトの網易(NetEase.com)、SCMソフトの富基旋風科技(e-future)等です。これらの中国企業はバハマ、バミューダやケイマンといった、いわゆるタックス・ヘヴンに持ち株会社を設立し中国本土にある企業を傘下にする形で上場しています。米国証券市場に上場することで資金調達力を高め、知名度やブランド力を向上させ、さらに中国国内においては外資系企業としての税制優遇措置まで受けられるそうです。また、上場の方法についても中国企業は柔軟に対応しているようです。例えば、Reverse Takeoverという方法を用いるケースです。Reverse Takeoverに相当する適当な日本語が無いようなので、無理に訳せば逆買収というところでしょうか。簡単に言えば、未上場企業が上場企業(事業環境の変化により休眠状態となった会社でも構いません)を買収することで自らが上場企業になる、という方法です。通常のIPOでは決算書の整備、目論見書の作成、SEC(米国連邦証券取引委員会)に対する各種ドキュメントのファイリング、加えてロードショウと呼ばれる投資家への営業活動など、弁護士、会計士、その他諸々の経費が発生してその金額は莫大なものになり、IPOに至るまでに1年以上はかかってしまいます。たとえ準備が済んだとしても株式市場が冷え込んでいては株式公開による多額の資金調達は見込めません。Reverse TakeoverでOTCブリティンボードやピンクシートといった店頭公開市場の企業を買収し、其の後にNASDAQへ移行すれば費用も時間もぐっと短縮できるそうです。あの手、この手で企業価値を高めようとする中国企業の知恵とパワーには驚くばかりです。


 対して日本企業でNASDAQに上場しているのは、インターネット・イニシアティブ、ダイエー、三井物産、マキタ、ワコール、日産自動車の計7社だけです。確かに日本国内で安定して資金調達ができるのであれば、何も好き好んで厳しい投資家対応、ディスクロージャーやSOX法に対応しなければならない米国の証券市場で上場する必要はないのかもしれません。しかし、そうしたルールをすいすいクリアして資金調達してしまう中国企業のパワーを目の当たりにすると、ついつい時節柄「頑張れニッポン!」とこぶしに力が入ってしまいます。


 さて、北京オリンピックも前半が終了し、きっと、我が日本選手団は柔道、レスリング、水泳、バドミントン、卓球、バレー、サッカー、野球等の種目で他国を圧倒する素晴らしい活躍振りを見せてくれるものと信じています。少なくとも前半終了時点で前回のアテネオリンピックに並ぶ16個の金メダル獲得は堅いはず。過去最多の金メダル獲得を目指し、後半もきっと熱い戦いが続くことでしょう。頑張れニッポン!

有澤保険事務所

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