BaySpo 1034号(2008/08/29)掲載
米国の消費者製品安全法改正
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 頓宮 裕貴
頓宮 裕貴 (はやみ ゆたか)
1988年、東京大学工学部計数工学科卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。情報セキュリティ政策をはじめ、さまざまな分野での業務を経て、2007年6月よりJETRO SFセンターに赴任。BICの責任者として、日本ベンチャー企業の米国市場参入のサポート。その他、シリコンバレー情勢調査分析等を担当。

 本年8月14日、ブッシュ大統領の署名により、"The Consumer Product Safety Improvement Act of 2008"という法律が成立しました。


 昨年、米国内で販売されていた中国製の玩具に基準値を超える鉛が含まれていることが判明し、大量のリコールが行われるなど、消費者向け製品の安全性が社会的な問題となりました。


 米国イリノイ州にある非営利法人"Kids in Danger"の調査によれば、2007年の全リコール件数である448件の約52%に相当する231件は子供向けの製品であり、約4600万個の子供向け商品が対象になったとのことです。ちなみに、2007年は、同非営利法人が調査を始めた2001年以降でリコール件数が最も多い年だったそうです。


 消費者向け製品の安全を確保するため、米国には、1972年に設立され30年以上の歴史を有する、Consumer Product Safety Commission (消費者製品安全委員会)という大統領直属の機関が存在しているのですが、職員数は約400名に過ぎず、迅速な対処が行われていないとの批判を外部から受けています。


この消費者製品安全委員会の最高意思決定機関である委員会の委員数は通常3名なのですが、2006年7月に委員会の前議長が辞任してから2名となっています。消費者製品安全委員会の設置法によれば、委員数が2名になってしまった場合、半年間の暫定期間中は2名の合意によって委員会の議決ができるのですが、その期間が経過すると議決ができなくなってしまいます。一部期間の抜けは生じたものの、2008年2月までは何とか暫定期間を延長してきたのですが、2008年2月以降、この暫定措置は効力を失っており、結果として、委員会の議決を必要とする強制リコール等を発動できなくなっていました。


 この委員数をめぐる問題が発生した2006年7月以降、何も動きがなかったわけではなく、昨年春にブッシュ大統領は新議長を指名しようとしたのですが、その人物が全米製造業協会のロビイストであったこと等から、結局就任には至りませんでした。


 また、消費者製品安全委員会と産業界との関係をめぐっては、昨年11月、ワシントンポスト紙に、2002年以降、前議長と現在の議長代行が、中国出張を含めた約30回の出張経費の一部につき、産業界やロビー団体から補填を受けていたとの記事が掲載され、大きな波紋を呼びました。(同報道によれば、証券取引委員会(SEC)、食品医薬品庁(FDA)、連邦通信委員会(FCC)といった、他の類似の機構では、このような利害関係者からの旅費補填等は禁止されているとのことです)


 このような背景の下で成立した法律が、最初に申し上げた"The Consumer Product Safety Improvement Act of 2008"であり、その具体的内容は、既存の法律を改正し、@消費者製品安全委員会の予算・職員数の増強、A利害関係者から旅費供与等の便宜を受けることの禁止、B法律違反に対する民事罰・刑事罰の強化(資産没収も追加)、C公益通報者保護制度の導入、D鉛、可塑剤等に係る安全基準の強化、E特定の子供向け製品に係る第3者安全性試験の義務化、F法律成立後1年間を2名の委員で議決ができる暫定期間として設定すること等です。


 欧州連合の政府機関である欧州委員会では、10年程前まで、政策分野を担当する総局と呼ばれる機構を番号で呼んでいたことがあり、その1番目は通商を担当する総局でしたが、最後の24番目は、当時の組織改編の過程で、他の総局の権限を移管等して作られた健康・消費者保護を担当する総局でした。このように設立されたのは一番新しいのですが、国民の高い関心の下、健康・消費者保護総局は当時から活発に活動をしており、かつ優秀な人材が欧州各国から集まっていました。


 日本においても、本年6月、消費者行政推進会議において内閣府の外局として「消費者庁(仮称)」を設置し、関係する法律を移管・共管とすることなどを柱とした報告書が取りまとめられ、今後、来年度の同庁創設に向けた動きが活発化するものと見込まれます。


 このような消費者向け製品の安全対策がどの程度充実していくかについては、その国の国民一人一人がどの程度継続的に高い関心を寄せるかに依存するのではないかと思います。例えば、鉛を含有する玩具が作られるのは、発注者のコスト抑制の要請に応えて安価な塗料を使ったからであり、発注側の責任も大きいとの議論がありますが、発注者も消費者の志向を無視するわけにはいかないはずです。

 米国における関心の高まりが一過性のものではなく、消費者製品安全委員会の強化が現実のものとなり、円滑に機能していくことを、米国の消費者の一人として期待しています。

有澤保険事務所

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