「シリコンバレー発ビジネス最前線」に寄稿させていただくようになって丸1年が経過するのですが、今まで自分の仕事である日本のベンチャー企業の米国市場参入支援に関する話をあまり書いてこなかったので、今回少し触れたいと思います。
JETROでは2001年、サンノゼ市においてBusiness Innovation Center(BIC)という日本のベンチャー企業を支援するためのインキュベーション施設を開設、さらに2004年からはマウンテンビュー市のインキュベーターであるB-Bridge Internationalとの連携の下、ウェットラボ付きのインキュベーション施設を提供しており、これまで累計で70社を超えるベンチャー企業への支援をしてきています。
イノベーションを促進し、国全体の経済を活性化していくためには、新規事業を創出するベンチャー企業の活躍が不可欠なのですが、日本における最近の企業開業率は約5%である一方、廃業率は約6%であり、あまり起業が活発であるとは言えません。
例えば、18歳から64歳までの人口のうち起業スキルがあると考えている人の割合は、米国では約40%(日本では約15%)であり、開業率も約10%と、日本の2倍です。これには、教育の問題や年金基金の運用方針の違いによるベンチャー向け投資資金の量的相違など、さまざまな要因があると思われます(日本では公的年金の投資先に制約があることから、米国のベンチャーキャピタルに占める年金基金の出資比率が42%であるのに対して、日本での出資比率は5%に過ぎません)。
昔は、日本では起業家をあまり尊敬しないからベンチャー企業が増えないとも言われていましたが、日本で成功した起業家を尊敬する人の割合が1999年の8%から2007年には約48%まで増えてきているというデータもあり、状況は少しずつ改善しつつあるようです。ちなみに、このデータでは2007年時点で英国での割合が約74%、米国での割合が約50%となっており、日米であまり相違がありません。米国での割合は1999年には90%を超えていたのが年々低下しているので、むしろ尊敬されなくなってきているという結果になっています。ただ、いずれにせよ、先に申し上げたデータにあるように、全体としては、日本の起業活動はそれほど活発ではないと考えられます。
今でこそ、日本でも学生時代に起業される方々がかなり出てきていますが、私自身、約15年前、米国の中西部にある大学に留学していた際、学校に通いながら通信販売の会社を個人で運営しているクラスメートや、小型航空機によるチャータ便(普通の飛行機に乗せにくい囚人の護送などもしていたようですが)の会社を経営している学生、副業としてコンサルタント業などを積極的に行っている教授達など、起業自体があまりめずらしくないという周囲の環境に一種のカルチャーショックを受けた記憶があります。
私の個人的な考えはありますが、松下電器、ソニーなども最初は小さなベンチャー企業に過ぎず、英語力のレベルなどを気にすることなく、積極的に海外市場を開拓していった結果として、今日国際的な大企業に成長したわけですから、日本人に起業する力やビジネスを国際展開する力は備わっているはずだと思います。
ただ、せっかく日本で起業しても、世界第2位の経済力と1億人を超える人口を抱える(先進国の中で人口が1億人を超えるのは米国と日本だけです)日本市場にのみ注力することが多いようです。この観点からすれば、国内市場がそれほど大きくない国の方々は、やはりハングリー精神旺盛に、海外市場を狙わざるを得ない立場に置かれているのかも知れません。
日本も現時点では国内市場中心で経済を維持することが可能なのかもしれませんが、日本の少子高齢化が進展する中、日本企業が積極的に国際展開を図っていかなければ、国として、いずれ限界が出てくるのではないかと思われます。
こうした問題意識の下、JETROでは日本のベンチャー企業の皆様の米国事業展開を支援してきておりますが、現在、JETROが運営等するインキュベーション施設には、世界の英語圏市場への展開も狙って米国市場への参入を図られている約10社のITベンチャー企業の皆様に加え、3社のバイオ系ベンチャー企業の皆様に入居いただいています。
まだまだ少ない経験ですが、起業を目指す方々は周囲の環境から影響を受けられることが多いようです。私達の支援で米国展開されたベンチャー企業の皆様の活躍が呼び水となって、次代の日本を担う国際的ベンチャー企業が次々と現れてきていただけるよう、今後とも努力していきたいと考えています。
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