ここ数年、米国の新しい成長分野として人、モノ、カネを集めてきたクリーンテック(環境技術)市場ですが、ここへきて2つの外的変化が起きています。一つはエネルギー(ガソリン)価格の下落、もう一つはウォールストリートを震源とする金融危機です。
燃料価格下落の影響は?
まずガソリン価格が最近低下傾向にあることは、自動車に乗る方はよくご存知でしょう。レギュラーガソリンの全国平均価格は7月14日の週に1ガロン=4・05ドルの高値を付けたのち徐々に下落、10月6日の週は3・49ドルにまで下がりました。原油取引価格(WTI)も7月に1バレル=145ドルのピークを付けましたが、10月6日時点で1バレル=90ドルにまで下がっています。世界的な景気後退による需要減、原油在庫の増加に加え、投機マネーの逃避が原因と見られています(とうもろこしや大豆などの穀物価格も投機マネーの流出で下落しています)。消費者にとって燃料価格の下落は歓迎ですが、現在のクリーンテック熱にはどのような影響を与えるでしょうか。ソーラーパネルの設置にブレーキがかかるでしょうか。例えばガソリン価格が2ドル程度にまで下がったとしたら、ハイブリッド車の販売に陰りが出るでしょうか。2ドルというのは非現実的に思えますが、つい最近(2007年前半や05年以前)の水準です。
政策もクリーンテックを後押し
しかしクリーンテックの流れはそう簡単に後退しないと見られます。まずエネルギー価格については、実需に見合った妥当な価格は1バレル=70ドル前後と言われますが、一方2009年には1バレル=平均126ドルになるとの予測(エネルギー情報局)もあり、見方は分かれています。いずれにせよ、10年前の1バレル=12ドル(1998年平均価格)からはほど遠く、エネルギーを湯水のように使えた米国大量消費の時代は終わりを告げたと言えるでしょう。また、そもそもクリーンテックの流れは、エネルギー価格の高騰だけでなく、気候変動、大気・水質・地質汚染、動植物への悪影響、食品の安全への不安など他の多くの要素によって加速されてきたものです(必ずしも科学的でない議論もありますが)。
政策もクリーンテックを後押ししています。2007年12月に成立した通称「新エネルギー法」は、2020年までに365億ガロン(2007年時の約5倍に相当)の再生可能燃料の利用を義務付け、また企業別平均燃費基準(CAFE)を1ガロン35マイルにまで引き上げる厳しい内容も盛り込んでいます。地元カリフォルニア州では、2020年までに温暖化ガス排出量を1990年のレベルまで減少させる「2006年カリフォルニア地球温暖化問題解決法」、2018年までにソーラーパネルを100万台取り付けるイニシアティブなど、次々と独自の法律やプログラムを導入しています。この動きはコネチカット州やオレゴン州など他州にも広がっています。
金融クランチが落とす影
最大の懸念は金融危機でしょう。ベンチャーキャピタル協会(NVCA)によると、2008年第2四半期の株式公開(IPO)はゼロ件で、これは1978年以来のこと。第3四半期も1件にとどまり、2008年1〜3四半期のIPO合計数はわずか6件。前年同期の55件からの大幅減です。M&A件数も前年同期28%減でした。ただし、ベンチャー投資金額やベンチャー資金集めは昨年並みを維持しており、必ずしも資金が集まらない状況ではないようです。中でもクリーンテック分野は、2008年第2四半期の投資額が前期比41%増の9・6億ドルに達しました。つまり起業ではなく、出口(exit)のところが大きくつまずいている構図です。
Crosslink Capitalのピーター・リップ氏は、「初期段階のベンチャーへの悪影響はまだ小さいが、資金を多く必要とする後期の企業には厳しい環境が続く」と述べています。Web系ビジネスと異なり、クリーンテックは大きな初期投資を必要とする点も不安材料です。
クリーンテックにとっての救いは、連邦政府や州政府による支援・補助金制度でしょう。2007年度、連邦政府によるエネルギー関連補助金166億ドルのうち、再生可能エネルギー関連は30%を占め最大となりました。大統領候補のマケイン、オバマ両氏ともにクリーンテック支援を明言しています。クリーンテック製品・サービスはコストの関係上、従来製品に対して価格競争力に弱い場合が多く、補助金の恩恵は大きいのです。政府がクリーンテックを支援するのは、環境保護はもちろんながら、優秀な人材を惹きつけ、派生産業を生むその雇用創出力への期待からです。クリーンテックには、単なる生き残りでなく、「牽引役」としての期待がかかります。
(執筆協力:大和田貴子)
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