11月4日の大統領・議会選挙にあわせ、カリフォルニア州では12本の提案(プロポジション)が住民投票にかけられました。そのうち最も注目を集めたのが、同姓婚の是非をめぐる「提案8」で、結果はYes(=同姓婚の禁止)が52%を占め可決となりました。賛成派は勝利に大いに沸いたものの、他方、すでに結婚した1万8000組とも言われる同姓婚夫婦の法的立場はどうなるのか、そもそも婚姻制度という重大な制度変更を住民投票で決定できるのかなど、法や人権の根幹にかかわる問題が提起されています。住民投票という制度が持つパワーと怖さを見せつける一件です。
住民投票の制度は、全米20 州以上で採用されている意思決定方法で、提案が過半数の支持をえれば、議会の審議を経ずに法律の制定や無効などが成立します。選挙民にとって、議員を選ぶよりも、自己の一票がより直接的な影響を持つ制度といえます。地元テレビでは連日、各提案に対する反対派、賛成派による広告が流れていましたし、街頭に立って「Yes on Prop X」などと訴える人の姿も多数目にしました。
カリフォルニア州では、提案を提出するためにかかる費用はわずか200ドル。提案が可決した場合に予算の増加が必要な場合でも、提案者みずから困難な予算算出をする必要はなく、州財務省と予算委員会が推計値を算出してくれます(公平な数字を出すためでもありますが)。そして直前の州知事選挙での投票数の5%(州憲法改正の場合は8%)に相当する有権者の署名をえられれば、投票所で投票に付され、有権者の判断を仰ぐことができるというシステムです。
知り合いの政治コンサルタントによると、彼は過去に2回提案を作成するのを手伝い、そのうち1つは可決したそうで、文字通り「自治」を身近に感じることができます。カリフォルニア州務長官は、「住民投票の制度は民主主義の原点であり、人々に付与された権利」と評価しています。しかしこのような「直接民主主義」は、連邦レベルでは存在しません。法律は、唯一議会のみが作ることができるのであって、国民は立法権限を持つ議員を選ぶのみです。住民投票は、建国以来、特に西側の諸州−オレゴン、カリフォルニア、コロラド、アリゾナ、ワシントン−で頻繁に実行されてきました。その背景には「東側にくらべて遅れた経済・社会を発展させるため、住民意思を迅速に実現する必要性」や「ワシントン政治に対する反感」などがあったといわれています。
さて、今回投票に付された12本の提案のうち、ビジネスや環境の観点からいえば、「提案1」の「カリフォルニア州縦断高速鉄道建設のための債券発行」(賛成52%、反対48%で可決)が注目でしょう。州の財政赤字が膨らむ中、あえて州民がYesを選びました。現在カリフォルニア州は150億ドルの財政赤字を抱え、今後さらに赤字が膨らむのは必至。これ以上の財政悪化は、州民負担の増加に直結します。
投票内訳を見ると、第一期建設の予定されているサンフランシスコ―ロサンゼルス間にあるギルロイ、フレズノ、ベーカーズフィールドなどの都市のある郡やその周辺郡は賛成。他方、計画から外れる郡はほとんどが反対という結果になりました。将来的に高速鉄道が延びる計画のあるサクラメントやサンディエゴですら反対を投じました。まして北部や内陸部はほぼ全郡が反対で、最北東部のモドク郡では反対が8割にのぼりました。このように地域によって賛否がくっきり分かれる結果となりましたが、逆に言えば「地元に高速鉄道が通るなら賛成」「地元に通して欲しい」という住民意思の表れと言えるでしょう。
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