BaySpo 1050号(2008/12/19)掲載
雲(クラウド)のはなし
ェトロ・サンフランシスコ・センター 次長 荏原 昌
荏原 昌(えばらまさし)
2003年日本貿易振興会(ジェトロ)入会。ジェトロ入会以前は民間企業(システムインテグレーター)で新規事業企画、ベンチャーへの投資、ジョイントベンチャーの立ち上げ等を担当。2008年3月からサンフランシスコセンター次長。新潟県出身、中央大学理工学部卒業。

 1999年9月9日、Netscape Communicationsの共同創設者として有名なMarc Andreessen氏が、LoudCloudという印象的な名前を持つベンチャーを設立しました。同社はインターネット・サービス企業や一般企業向けにインターネットのインフラを提供する、いわゆるMSP(マネージド・サービス・プロバイダー)ビジネスの先駆者として、ネットバブル真只中の2001年3月に350Mドルを調達し上場を果たすものの、バブルの崩壊と共に事業は破綻しました。LoudCloudが破綻した原因のひとつは、急成長するMSPビジネスを支えるインフラ投資を賄う資金の確保が困難になったからと言われています。もし、今日のようにコンピュータ・リソースを迅速かつ安価に調達することができたら、LoudCloudの運命は違ったものになっていたかもしれません。クラウド・コンピューティングを考えるとき、決まってMarc Andreessen氏が設立したベンチャーのことを思い出します。

 さて、クラウド・コンピューティングについての話を進めていきましょう。クラウド・コンピューティングとは、インターネット上の様々な場所に存在する膨大なコンピュータ・リソースを使ってソフトウェアやストレージをサービスとして提供する仕組みのことです。ネットワーク経由でソフトウェアを利用するSaaS(Software as a Service)もこの一種ですが、クラウド・コンピューティングの方が利用者にその仕組みを意識させないという意味合いが強いと言えます。私たちの身の回りにあるものに例えれば、電気やガス・水道のように、発電方法や上下水道の整備状況といった供給の仕組みを意識することなく、必要な時に必要なだけ利用できるサービスです。一般にコンピュータの世界では、インターネットは雲(クラウド)のデザインで表現されることから、クラウド・コンピューティングと呼ばれるようになりました(2006年8月にGoogleのEric Shmidt氏が「クラウド・コンピューティング」という言葉を公の場で使ったのが最初とされています)。

 クラウド・コンピューティングの利用者は、雲(クラウド)に接続すればいつでもどこでもサービスを使うことができます。また、サービスはWebブラウザを通じて提供されるのが前提になっているので、Webブラウザが使えるパソコン、携帯情報端末(PDA)、携帯電話、ゲーム機器など、様々な端末から利用することが論理的には可能です。サンマテオに本社を構えるSalesforce.comが提供する営業支援サービスを日本の郵便局会社が採用しているのは有名な事例ですが、企業向けだけではなく、皆さんが普段何気なく使っているWebメールやWebスケジューラー、デジタル写真やビデオの保存サービスもクラウド・コンピューティングによるサービスと言えます。

 ベイエリアの青い空のもとに、クラウド・コンピューティング分野をターゲットにビジネス展開を図っているベンチャーが沢山存在しています。そうした中から今回は注目を集めているベンチャーを3社簡単に紹介します。Engine Yard(サンフランシスコ)は、2006年に設立されたベンチャーで、日本発のプログラミング言語Rubyと開発環境であるRuby on Railsを使ったシステム開発、運用・管理サービスを提供しています。同社にはBenchmark CapitalやAmazon.comといった企業が出資しています。OpSource(サンタクララ)は、SaasやWebアプリケーションを上手く利用するためにシステムの連携や運用、課金といった基本的な機能を提供しています。Cast Iron Systems(マウンテンビュー)は、複数のSaaS同士を短期間で統合(インテグレーション)するビジネスを行っています。例えば、営業支援と在庫管理・経理といったそれぞれプロバイダーが異なるサービスを統合して利用者が使いやすいシステムを構築しています。

 クラウド・コンピューティングをベースにしたサービスは、導入のし易さや運用コストの削減が期待できることから、採用する企業が増えると予想されています。あるITアナリストは、2013年までに企業の情報システムの20%はクラウド・コンピューティングを活用して企業の「外」で運用されることになる、と予想しています。現時点では信頼性やセキュリティに対する不安を感じる企業があることも事実です。ただ、パソコンやインターネットもその黎明期において同じような懸念があったことを思えば、いずれ何らかの解決策がシリコンバレーから生み出されることでしょう。

 2008年はサブプライムローン問題、原油高、金融危機、インドのテロと暗いニュースが記憶に残る年になってしまいました。ベイエリア全体にも影響が出てきています。ただ、歴史を振り返ってもシリコンバレーは幾度かの逆境を乗り越え、その度に力強く立ち上がり成長してきています。2009年に期待しましょう。

有澤保険事務所

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