2008年12月1日から12月12日まで、ポーランドのポズナンにおいて気候変動枠組条約の第14回締約国会合などが開催されました。1997年に京都で開催された第3回締約国会合では、2008年から2012年までの5年間を目標期間として、先進国の温室効果ガス排出量に係る数値目標が設定されたのですが、現在、2013年以降の枠組みについて、2009年末までに結論を得るべく交渉が続けられています。皆様も御存知と思いますが、第3回締約国会合で京都議定書が採択された際、米国の大統領は民主党のクリントン大統領でしたが、その後、2001年の共和党ブッシュ政権下で米国は京都議定書からの離脱宣言を行い、本日に至っています。
各種報道によれば、2009年1月に発足する米国のオバマ新政権は気候変動枠組条約への交渉参加に積極的と他国に受け止められていることから、会合での議論は様子見の気配が強く、先進国と途上国の溝が際立ったとのことです。
米国の新政権の陣容は固まってきており、地球環境問題に関係すると思われる主要閣僚等として、環境保護庁長官にニュージャージー州知事首席補佐官のリサ・ジャクソン氏が、環境評議会議長にロサンゼルス市副市長のナンシー・サトリー氏が、ホワイトハウスに新設されるエネルギー・気候変動担当調整官に元環境保護庁長官キャロル・ブラウナー氏が、エネルギー長官にローレンス・バークリー国立研究所所長のスティーブン・チュー氏が指名されました。
このうちキャロル・ブラウナー氏は、クリントン政権下で環境保護庁長官を8年間も努め、さまざまな新しい環境対策を推進したことで知られていますし、また、スティーブン・チュー氏は1997年にノーベル物理学賞を受賞しており、自然科学系の学者が閣僚に任命されることはめずらしいことから話題になっています。
スティーブン・チュー氏はローレンス・バークリー国立研究所の所長に就任してから、同研究所を再生可能エネルギー等の研究で世界トップクラスにしたと言われていますので、新しいポストにおいても再生可能エネルギーの導入に積極的であると予想されています。しかしながら、何故こんなに長い間気候変動問題が議論されているのでしょうか。大きな理由としては2つあると思います。一つは、地球全体で気候変動問題に対処していく観点から途上国も含めた参加が必要とする先進国と、気候変動問題の原因は先進国の過去の経済活動等にあるとする途上国の間の対立です。温室効果ガスの太宗は、経済活動を支えるエネルギーの消費に起因するものですので、温室効果ガスの排出抑制は経済成長の抑制につながりかねないという懸念が背後にあり、このような対立が存在しているのです。
もう一つは、先に申し上げた理由と共通する部分があるのですが、エネルギーの消費構造や供給構造が複雑であるため、改革していくことに大変な労力と痛みを伴う可能性があるからです。
皆様はエネルギー・バランス表というものをご覧になったことがあるでしょうか。国際エネルギー機関(IEA)のホームページで各国のエネルギー・バランス表が公開されていますが、非常に簡単に申し上げれば、供給されたエネルギーがどこで中間加工され、最終消費されるかをマトリックスにしたものです。
故ワシリー・レオンチェフ氏は産業連関分析等によって1973年にノーベル経済学賞を受賞しましたが、この産業連関分析とは、例えば1単位の原料を製鉄プロセスに投入すると、自動車の生産量にどのような変化があるのか等、各経済活動の関係をマトリックスにして分析する手法です。
エネルギーの需給構造等と深く関わる気候変動問題は、このエネルギー・バランス表と産業連関表を組み合わせたような複雑な問題なのです。
エネルギーを大量使用する製鉄業にエネルギー使用上限値を設定すると、自動車産業に供給される鉄板の量が制限され、生産量の調整や雇用の調整(失業)等が発生する可能性があります。しかし、自動車産業が他国から鉄板を輸入すれば、結局、地球全体としては何の改善にもつながっていません。各国がそれぞれ経済活動を維持しながら気候変動問題に対処していくというのは至難の業なのです。また、排ガスを出さない電気自動車が話題になっていますが、石炭等を燃焼して発電する過程で、半分弱のエネルギーをロスしますし、発電所でガスを出していますので、火力発電を前提とするならば、電気自動車の普及が環境にとって必ずしも良いとは限りません。見た目クリーンなものが、本当にクリーンであるかは需給の全工程において検証が必要となります。
原油価格が下がったことにより、太陽光発電等の再生可能エネルギーの価格面での魅力がなくなっていく中、この複雑な問題の解決に向け、新政権における閣僚がどのような知恵を出していくのか是非期待したいと思います。
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