化石燃料に替わる燃料として期待の高まるバイオ燃料ですが、アメリカではその多くがとうもろこしなどの食物由来。そのため、「食料価格を不安定にしている」「環境に優しくない」といった批判が強まっています。対するバイオ燃料推進派は「歴史的にもエタノールの生産拡大と食料価格の関連性はない」などと反発。論争は感情論も交えて、出口の見えない状況が続いています。一方、昨年夏のピークからガソリン価格は現在大きく下落し、安かったエタノール価格を下回るようになっています。こうなると精製業者がエタノールをガソリンに混合するインセンティブは薄れ、アメリカエタノール業界は生産過多に陥っていきます。燃料需要全体の低迷とあいまって、これまで国内16のエタノール生産工場が稼動停止に追い込まれ、大手Vera Sun(サウスダコタ州)も破産法の適用を申請しています。ほんの数年前にガソリン価格高騰に対する切り札のように言われたバイオ・エタノールですが(当時から否定的意見はありましたが)、現在は停滞感が漂っています。
しかし、バイオ燃料の拡大が必要であることに異論を唱える人はなく、議論は「とうもろこしの次」あるいは「とうもろこし+何か」へと移りつつあります。具体的には、廃棄物、セルロース系(木質、稲わら、スイッチグラス)、糖質系(さとうきび、てん菜)由来といったバイオ燃料に期待がかかっており、これらの実用化、低価格化が急務となっています。しかし、これら次世代バイオ燃料にもまだ多くの課題があります。資源があちこちに分散しているため収集や運搬に手間がかかる、生産効率が悪くコスト高、大量・安定的な供給体制が整備されていない、燃焼効率や混合率が低い―などです。また、生産から消費までのライフサイクル全体で見た場合の環境性能も重要です。
この殻を破ろうとして、カーギル、ADM、デュポンなど大手はもちろん、ベンチャー企業による挑戦が続いています。主なところにRange Fuels(コロラド州)、Coskata(イリノイ州)、Imperium Renewables(ワシントン州)などがあります。カリフォルニア大学バークレー校近くにあるAmyris Biotechnologiesもその1つ。同社は、環境負荷の低いさとうきびを用いて、ディーゼル燃料に極めて近い分子構造のバイオ燃料を開発中です。実現すれば、パイプラインで輸送ができる上、低ブレンドにとどまる現在のバイオ燃料の壁を破り、使い勝手が良く、食物と競合しないグリーンなディーゼル燃料が生まれるかも知れません。バイオディーゼルは、一般に菜種や大豆を使いますが、もっと安価で豊富・安定的に入手できるさとうきびを使う点もユニーク。「妥協なき(No compromise)バイオ燃料」が同社のテーマです。
アメリカでは乗用車燃料としてディーゼルはあまり使われていませんが、それでも大型トラック、鉄道、航空などに広く使われていますし、欧州などディーゼル車が当たり前の地域にも活躍の場がありそうです。同社は、2003年、カリフォルニア大学バークレー校ローレンス国立研究所から独立したバイオベンチャー。同研究所は、オバマ政権のエネルギー長官に就任するスティーブ・チュー氏が2004年8月から所長を勤めてきたことでも知られます。チュー氏は「地球温暖化と再生可能エネルギーの開発は、科学が直面する最も大きな挑戦」と述べており、それをビジネスとして実践する企業の一つでしょう。
主な投資家には、コスラ・ベンチャーズ、クライナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズなどがあり、ベンチャー企業としては高額と言える1億2000万ドルを調達しています。2008年11月にブラジルの大手エタノール会社と提携し、2011〜12年にはブラジルで量産を開始する計画とのこと。景気の悪化、資金難、ライバル企業との競合など、先行きは不確かですが、同社CTO(最高技術責任者)のレニンジャー氏は「確かに逆風は吹いている。しかし温暖化への対応は急務。持続可能な燃料の需要は確実に伸びる」と、前向きの姿勢を示しています。
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