景気浮揚を担う柱の一つとして期待のかかるクリーンテックですが、ベンチャー資金全般の縮小傾向、IPO(株式公開)やM&A(企業合併統合)件数の大幅減など、市場・企業を取り巻く状況は厳しさを増しており、強気と弱気の要素が混在しています。強気要素の第一にはオバマ政権による大型のグリーン投資が挙げられます。2月13日に民主党主導議会において景気対策法案(総額約7870億ドル)が成立し、クリーンエネルギー対策にも、相当手厚い政策が盛り込まれました。例えば、先進的な電力供給システム導入、高性能バッテリー技術などに総額300億ドル(約50万人の雇用を創出)、エネルギー効率化に今後10年間で200億ドルの税制インセンティブ、ハイブリッド車購入世帯に対し最大7500ドルの税額控除・・・などです。
とはいえオバマ大統領への期待は、このような政策面に対してだけではなく、彼の発言が非常に具体的であり、いわば「よくわかっている大統領」と見られているためでもあります。例えばオバマ氏は選挙直前の2008年10月30日、NBCのインタビューに応えて次のように述べています。
「今最も必要なインフラの一つは、全く新しい優れた送電システムだ。これができれば、例えばサウスダコタの風力発電所から(1500km離れた)シカゴに電力を送ることができる。一般市民がプラグイン・ハイブリッド車を利用し、蓄電した余剰電力をピーク時に売ることもできる。しかし、このシステムの実現を民間企業に負わせるにはリスクが高すぎる。政府の支援が必要だ」。
「シカゴ」という名前を出してさらっと地元民へのメリットをアピールするところにも鋭いものがありますが、クリーンテック業界でも同氏の発言は拍手を持って迎えられました。これはいわゆる「スマートグリッド(先進的電力網)」についての指摘で、いずれも現在のところできていないが実現しなければならず、しかも不可能とは言えない目標です。出力が弱く安定しない風力発電による電力を1500km離れた都市に届けられないか、あるいはプラグイン・ハイブリッド車が数万台規模に増えた場合、これら「走る蓄電池」の電力をうまく使えないか―。このためには送配電システム、エネルギー貯蔵、発電部門の設計などを大幅に見直し、それらと家庭や商業施設のメーターをネットワーク化した双方向システムを作り上げていく必要があります。当然実現には幾多の難題が待ち構えていますが、目的が明確であり、その過程で技術革新、雇用創出、社会変革をもたらすと期待できます。インターネットも長い年月をかけて現在の高度な双方向性、ユビキタス性を実現しつつあるわけで、ここにITと環境(電力)技術が結合する可能性も広がっています。
また、ベンチャーキャピタル投資に占めるクリーンテック分野への割合が着実に増えているのは力強い後押しですし、米国市民の環境意識も変化しているようです。例えば、米国はいまや世界のハイブリッド車販売の64%を占めるハイブリッド大国になっていますし、世論調査で「環境保護は重要ですか」との問いに、89%の人が非常に重要または重要と答えています(AP、08年11月)。また当地で書店を訪れると環境関連の書籍が多いことに感心します。実際Amazon.comで?environment?をキーワードに書籍検索をすると、最近2年間の新しい書物だけで4万冊以上がヒットします。?global warming?は6000冊、?solar energy?は1800冊という具合。ベストセラーに環境関連の書物が顔を出すことも珍しくありません。
とはいえ、あまり変わっていないアメリカもあります。依然、全自動車販売台数の半分近くをライトトラックが占め、2008年の販売車種トップはフォード「Fシリーズ」、2位がシボレー「シルベラード」。ともに平均燃費5・6km/lとお世辞にもエコフレンドリーとは呼べない重量級ライトトラックです(3位はトヨタ「カムリ」)。また人口当たり自動車の保有台数や一人当たり年間航空機の利用回数は世界一。電車、バスの利用回数が年に1回以下という人が7割を超え、2位カナダを大きく引き離しています(National Geographic)。
このように米国には「グリーンな生活を達成したい」という意識がある一方で、それが実現できていないもどかしさがあります。これがオバマ政権やその政策への強い期待、技術的ブレークスルーによる大幅な価格下落への期待につながっているようです。特に省エネなどの需要サイドよりは、風力、バイオマス、ソーラー発電など供給サイドの環境ビジネスに人・カネ・技術が集まり、大きな起業家パワーになっているようです。
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