BaySpo 1064号(2009/04/03)掲載
米国再生・再投資法
ェトロ・サンフランシスコ・センター 頓宮 裕貴
頓宮 裕貴 (はやみ ゆたか)
1988年、東京大学工学部計数工学科卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。情報セキュリティ政策をはじめ、さまざまな分野での業務を経て、2007年6月よりJETRO SFセンターに赴任。BICの責任者として、日本ベンチャー企業の米国市場参入のサポート。その他、シリコンバレー情勢調査分析等を担当。

 2009年2月17日、オバマ大統領の署名により、米国再生・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act)が成立しました。米国議会予算局の試算によれば、この法律に基づく対策費は2009〜2019年までの11年間の累計で7872億ドル(うち歳出額が5753億ドル、減税額が2119億ドル)に上り、全体の約74%に相当する5844億ドルが2010年までの約2年間に支出される見込みとのことです。また、この試算によれば、米国再生・再投資法によって、米国の国内総生産(GDP)については、2009年第4四半期までに1・4〜3・8%、2010年第4四半期までに1・1〜3・4%、2011年第4四半期までに0・4〜1・2%押し上げられ、雇用については、2009年第4四半期までに0・9〜2・3百万、2010年第4四半期までに1・2〜3・6百万、2011年第4四半期までに0・6〜1・8百万が維持・創出されると予想されています。(これらGDP及び雇用に係る数値は、同法に基づく対策が実施されない場合の基準予測値との差異)。

 この法律の重点分野は、ヘルスケア分野、交通輸送分野、クリーンエネルギー・再生可能エネルギー分野の3つとされており、プライス・ウォーターハウス・クーパーの資料によれば、それぞれの分野における主な対策及びその費用は以下の通りです。

【ヘルスケア分野】
●Medicaid(低額所得者のための国民医療保障)への政府拠出増(866億ドル)
●COBRA(失業者・退職者のための医療保険)への政府拠出増(247億ドル)
●医療カルテの電子化推進等(192億ドル)
●米国立衛生研究所の研究開発費増(100億ドル)

【交通輸送分野】
●高速道路・橋梁の改修等(275億ドル)
●公共交通機関の改修等(84億ドル)
●高速鉄道・Amtrakの改修等(93億ドル)

【クリーンエネルギー・再生可能エネルギー分野】
●クリーンエネルギー・再生可能エネルギー関連の減税・債務保証等(830億ドル)
●送電網の改修等(110億ドル)

 この法律の成立を受けて、シリコンバレーではクリーンエネルギー関連ビジネスに対する政府支援への期待が急速に膨らんでいますが、その一方で、この法律に絡んで、Earmarkと呼ばれる用途指定のある歳出項目についての議論が行われています。米国では、議会で審議される歳出法案にEarmarkが付され、議員の地元や特定の組織に対して歳出が割り当てられることがあり、これが議員と利益団体との間の癒着の温床になっているのではないか、また非効率な財政支出につながっているのではないかとの批判が高まっています。

 米国の歳出法におけるEarmarkの数は1996年度以降急増し、2005年度歳出法では約16000件に上りました。Earmarkが乱発されているのではないかとの批判を受け、その後減少に転じましたが、2009年度の歳出法でも9000件を超えるEarmarkが含まれていると言われています。

 以前からEarmark制度を批判し、改革が必要であると主張してきたオバマ大統領は、2009年3月10日、米国再生・再投資法についてはこれまで問題視されてきたようなEarmarkは排除できたとした上で、依然歳出法にはEarmarkが多数含まれているとの認識を示し、議会に対して、今後、Earmarkを求める議員は自らのウェブサイトでその中身を事前公開し、公聴会でその正当性に係る説明を行うこと、私企業に係るEarmarkをそのまま当該企業に与えるのではなく、他の連邦政府の契約と同様の競争入札を行うこと等の、Earmark改革案を提示しました。

 ご存知のように米国の大統領には法案の拒否権が与えられていますが、全体に対して発動されるものであるため、仮に不適切と考える項目が含まれていたとしても、全体として法案の成立が必要な場合には拒否権の発動は難しくなります。これは以前から議論の対象となっていましたが、1996年のLineItem VetoActの成立によって、当時の民主党クリントン大統領が、法案の個別項目について拒否権(項目別拒否権)を発動できる権限を付与されました。しかしながら、その後、このような権限の付与は、立法府で審議された法律が大統領の一存で議会の決定を覆すことにつながるとの理由から、連邦最高裁判所によって違憲とされ、無効となりました。また、2006年には、当時の共和党ブッシュ大統領が項目別拒否権について、1996年の法律よりは弱い形での導入を目指しましたが、任期中に実現はできませんでした。

 議員の中には、官僚よりも議員の方が予算を効率的に利用する方法を熟知している、あるいは歳出の透明性を高めるためにEarmarkを付けることは議員の責任であり、Earmarkを付けないで多額の歳出を政府に認めることは、どこにどのような予算が流れるかがわからなくなるので、逆に透明性を損なうとの主張も存在します。

 オバマ大統領は、このような状況を踏まえて、項目別拒否権の導入を主張するのではなく、透明性向上等の観点からの措置を提案することにしたと考えられますが、前述のオバマ大統領の提案では、Earmarkは議員に認められた権利であるとしながらも、中身の精査の結果、公益に沿ったものでなければ、個々のEarmarkの削除について議会と調整を行うとしています。

 いずれにしても、このEarmark及び項目別拒否権は、米国の立法府と行政府の権力バランスの根幹にも関わるため、オバマ大統領は難しい判断を求められそうです。

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