この法律の成立を受けて、シリコンバレーではクリーンエネルギー関連ビジネスに対する政府支援への期待が急速に膨らんでいますが、その一方で、この法律に絡んで、Earmarkと呼ばれる用途指定のある歳出項目についての議論が行われています。米国では、議会で審議される歳出法案にEarmarkが付され、議員の地元や特定の組織に対して歳出が割り当てられることがあり、これが議員と利益団体との間の癒着の温床になっているのではないか、また非効率な財政支出につながっているのではないかとの批判が高まっています。
米国の歳出法におけるEarmarkの数は1996年度以降急増し、2005年度歳出法では約16000件に上りました。Earmarkが乱発されているのではないかとの批判を受け、その後減少に転じましたが、2009年度の歳出法でも9000件を超えるEarmarkが含まれていると言われています。
以前からEarmark制度を批判し、改革が必要であると主張してきたオバマ大統領は、2009年3月10日、米国再生・再投資法についてはこれまで問題視されてきたようなEarmarkは排除できたとした上で、依然歳出法にはEarmarkが多数含まれているとの認識を示し、議会に対して、今後、Earmarkを求める議員は自らのウェブサイトでその中身を事前公開し、公聴会でその正当性に係る説明を行うこと、私企業に係るEarmarkをそのまま当該企業に与えるのではなく、他の連邦政府の契約と同様の競争入札を行うこと等の、Earmark改革案を提示しました。
ご存知のように米国の大統領には法案の拒否権が与えられていますが、全体に対して発動されるものであるため、仮に不適切と考える項目が含まれていたとしても、全体として法案の成立が必要な場合には拒否権の発動は難しくなります。これは以前から議論の対象となっていましたが、1996年のLineItem VetoActの成立によって、当時の民主党クリントン大統領が、法案の個別項目について拒否権(項目別拒否権)を発動できる権限を付与されました。しかしながら、その後、このような権限の付与は、立法府で審議された法律が大統領の一存で議会の決定を覆すことにつながるとの理由から、連邦最高裁判所によって違憲とされ、無効となりました。また、2006年には、当時の共和党ブッシュ大統領が項目別拒否権について、1996年の法律よりは弱い形での導入を目指しましたが、任期中に実現はできませんでした。
議員の中には、官僚よりも議員の方が予算を効率的に利用する方法を熟知している、あるいは歳出の透明性を高めるためにEarmarkを付けることは議員の責任であり、Earmarkを付けないで多額の歳出を政府に認めることは、どこにどのような予算が流れるかがわからなくなるので、逆に透明性を損なうとの主張も存在します。
オバマ大統領は、このような状況を踏まえて、項目別拒否権の導入を主張するのではなく、透明性向上等の観点からの措置を提案することにしたと考えられますが、前述のオバマ大統領の提案では、Earmarkは議員に認められた権利であるとしながらも、中身の精査の結果、公益に沿ったものでなければ、個々のEarmarkの削除について議会と調整を行うとしています。
いずれにしても、このEarmark及び項目別拒否権は、米国の立法府と行政府の権力バランスの根幹にも関わるため、オバマ大統領は難しい判断を求められそうです。