BaySpo 1068号(2009/05/01)掲載
シリコンバレー、台湾へ〜ファンドリービジネスの始まり〜
ェトロ・サンフランシスコ・センター 前田 辰郎
前田 辰郎(まえだ たつろう)
工学博士。専門は半導体工学。1996年通商産業省工業技術院電子技術総合研究所入所、2001年(独)産業技術総合研究所次世代半導体研究センター、主任研究員。半導体MIRAIプロジェクトにて新規半導体材料の技術開発を行う。2008年4月よりJETROサンフランシスコ。日本のハイテクベンチャーの米国進出支援業務に従事。愛媛県出身。

 「シリコンバレー」という呼び名には半導体、IT産業の集積地という意味合いがありますが、他にも同様なシリコン○○と呼ばれる場所があるのをご存知でしょうか?例えばテキサス州オースティンは「シリコンヒルズ」、アリゾナ州フェニックスは「シリコンデザート」。発展著しいアラブ首長国連邦のドバイは「シリコンオアシス」だそうです。世界各国に○○国のシリコンバレーと呼ばれる地域がありますが、その中で最も成功したといわれる台湾のシリコンバレーのお話をしたいと思います。

 前回(1056号)では、日本のDRAM産業衰退を話題にしましたが、今なお日本の半導体産業が停滞している理由の一つに、米国と台湾のシリコンバレーがタッグを組んで生まれた「ファブレス」と「ファンドリー」という半導体産業の大きな構造変化があります。半導体ビジネスの大まかな流れは、開発設計→生産(前工程)→生産(後工程)→販売です。通常は、これら全てを半導体メーカーが社内で一貫して行っており、これを垂直統合型と呼んでいます。技術開発力がダイレクトに製品の高性能化と低コスト化に反映されるDRAMでは、その高い技術力を武器に日本の企業が1980年代わが世の春を謳歌したわけです。けれども、パソコンが広く普及し、消費者の要求が多様化するにつれ、業界の様子が少しずつ変わってきます。より顧客に近い部分、つまり開発設計と販売だけを専業とする「ファブレス」、そして「ファブレス」からの製造だけを請け負う「ファンドリー」と呼ばれる企業の登場です。これを水平分業型と呼びます。

 ファブレスのメリットは、開発と維持に巨額の費用のかかる製造部分を中抜きにすることで、資金的なリスクを回避し、小規模でも比較的安定した事業を行うことができる点です。その分、多様な消費者の要望を聞くことに集中し、それを実現するビジネスアイデアがあれば成り立つので、容易にベンチャーの起業が可能なわけです。こうしたベンチャー企業は、まずはニッチな領域を狙うので、大企業と共存できるだけでなく、大企業が手を出せないような新しい領域も積極的に開拓することができます。そうした分野で、シリコンバレーのベンチャーが活躍するようになるのは当然の成り行きでしょう。ここシリコンバレーで起業し、日本人として初のNASDAQへの上場を果たした小里文宏氏のTechwellなどもこのファブレスベンチャーです。

 このファブレスベンチャーの動きに呼応するように、台湾でファンドリービジネスが立ち上がります。ファンドリービジネスは、もともと日本企業が製造設備の余力がある時に、片手間でしていたビジネスでした。ファブレスベンチャーにしてみれば、片手間ゆえの不安定な納期に不満を抱き、また垂直統合型の日本企業への委託では、アイデアが盗まれるのではないかという疑いもありました。その頃、米国から台湾の政府系研究機関ITRIの所長に招聘されていたモリス・チャンは、このような不満を聞いて、台湾でファンドリービジネスをすれば成功するのではないかと考え、1987年に自らTSMCという会社を興します。IT産業の育成を最重要政策に掲げていた台湾政府も、ITRIからの人材の提供、優遇税制など資金面で強力にファンドリービジネスをサポートします。その中心的な舞台となったのが、台湾のシリコンバレーと言われる新竹科学工業園区です。

 TSMCも設立当時は最先端の技術をもっていたわけではありません。台湾政府の協力のもと官民一体プロジェクトを推進し、米国、欧州、日本など世界中からの注文をこなし、顧客の信頼を勝ち得ることで、TSMCはみるみるうちに技術力を身につけ、1990年代中頃には完全に技術面でもキャッチアップしたと言われています。また、台湾の本格的なファンドリーの誕生で、周辺技術を支える数多くのベンチャーが台湾のシリコンバレーで立ち上がりはじめます。回路設計企業、検査・品質保証企業、フォトマスク製造企業、組立て企業等が数多く生まれ、1970年代に台湾から流出した優秀な人材が米国から帰国するようになり、専門的かつ野心的なベンチャーが参加できる水平分業的な産業形態が新竹科学工業園区に出現します。その勃興の様子は、まさしく本家シリコンバレーの成長期を想像させるものです。

 今年3月に発表された2008年半導体売上ランキングによると、垂直統合型の大手企業に混じってファンドリービジネスを手掛けるTSMCが5位、米国ファブレスのQualcomm、Broadcom、Nvidiaといった会社がトップ20位ランクされています。特に成長率においてはQualcommとBroadcomが1、2位、TSMCが4位と、「ファブレス」と「ファンドリー」が上位を独占しており、この不景気にあって水平分業というビジネスモデルの強さが実証されています。TSMCは最先端の技術開発においても、Intelと協力して業界を引っ張るなど、その存在感が急激に増しています。

 実は、日本も2000年初頭に、日の丸半導体の復活を掲げ、国主導で様々なプロジェクトが立ち上がりました。日本発のファンドリー設立の話もあったようですが、大手電機メーカーの水平横並びの競争、社内の様々な壁に阻まれ、実現することなく現在に至っています。今なお、半導体ベンチャーを支える日の丸ファンドリーの設立が期待されています。

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