BaySpo 1072号(2009/05/29)掲載
リセッション期をどう過ごす?
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 中島 丈雄
中島丈雄(なかじまたけお)
ジェトロ・サンフランシスコ・センター調査部。1992年JETRO入社、情報システム室、中小企業庁国際室、経済産業省米州課、JETROニューヨーク調査部、海外調査部北米課などを経て、2006年10月より現職。東京都出身。

 リセッション(景気後退)が長引いています。アメリカ経済は2007年12月に景気の山を迎え、2008年1月から景気後退入り。景気後退期間は2009年4月で16ヶ月となり、戦後最長に並びました。2009年2月には、消費者信頼感指数が統計を取り始めて以来最悪の25・3という低い数値を示しました。個人消費が3四半期ぶりに上昇するなど、ようやく景気悪化のペースは鈍ってきましたが、まだまだ先行きは不透明です。

 アメリカ人はこのようなリセッション期をどう過ごしているでしょうか。どのような支出を減らし、どの支出を増やしているでしょうか。マッケンジーによる調査は、リセッション期と通常時の支出の伸びを比較したもので興味深いものです。1984年〜2006年における様々な項目の平均支出の伸び率を調べ、1990〜91年と2001〜02年のリセッション期にこの平均値に対してどのような変化が起きたかを調べたものです。これによるとアメリカ人は、景気後退期に外食、化粧品・ケア用品、旅行を控え、代わりに教育、読書、蓄えを増やし、健康や家族重視の傾向を強めています。これはマッケンジーの調査に限らず、他の世論調査でもおおむね一致する傾向です。あまり変化のないのがエンターテイメントや家関係で、エンターテイメントでちょっとした気晴らしをしたり、あるいは家にいる時間が長くなるので、気になっていた家の修繕を始めたりということかも知れません。タバコもあまり減っていません。景気が悪くてタバコが増えるという人もいるからでしょうか。

 それにしても教育と読書の増加は顕著です。読書には新聞や定期刊行物も含まれますので、「情報収集」と置き換えてもよいでしょう。これらへの支出が増えているのは、アメリカの逆境に対する強さを示す一端と言えるのではないでしょうか。

 「終わりのないリセッションはない」とはアメリカでよく聞かれる言葉です。リセッションはいつか終わります。その過程で競争力のない産業や企業は淘汰、縮小され、社会の変化が促され、新しい産業や企業が生まれます。リセッションが終わったとき、その後の新しい変化に適用するには、教育・訓練、自助努力、情報収集が欠かせません。

 もちろん解雇され職を失った人が履歴書に「職なし」という時期が生じるのを回避したくて学校に通うという場合もあるようです。あるいは会社が倒産して、一時的に学校に退避する人もあるでしょう。しかしそうした理由によるとしても、それがその人にとって新しい知識や技能の習得の契機となり、次のキャリアにつながるならば、その支出は、やはりその人の適応力を向上させたと言えるでしょう。

 一方、日本ではどの調査項目も「減らす」が「増やす」を上回っており、全般的な縮小傾向が目立ちます。このうち、教育に近い「自己啓発」は、減らすと増やすの差が小さくなっていますが、そもそも「支出予定なし」が56%にも上っています。日本で内需拡大が叫ばれて久しいわけですが、このようなデータを見るとなかなか難しいことがわかります。アメリカの事例に倣えば、日本人の勤勉性に訴える教育や訓練は、需要喚起の一つのヒントではないかと思います。

 1972年にラドクリフ大学(現ラドクリフ高等研究所)の総長となったマルティナ・ホーナー氏は「重要なことは学び続けること、挑戦を楽しむこと」と述べました(ラドクリフ大学は1879年創設で、ヘレン・ケラーやブット元パキスタン首相などを輩出したことで名高い女子大。現在はハーバード大学の傘下にあります)。これは専ら学問を目指す女性を勇気付ける言葉でしたが、それにとどまるものではないでしょう。

 アメリカにはいったん社会に出た人が通うための大学が非常に多く、遠隔授業を行うオンライン大学だけで4000校あると言われます。著名なところではフェニックス大学(University of Phoenix)、デヴリー大学(DeVry University)などですが、通常の大学もオンライン授業に力を入れています。国土の広いアメリカで優れた講師の授業を低価格かつ柔軟な方法で提供するには、このようなシステムはたいへん都合が良いと言えます。

 手厳しいメディアからは「アメリカの時代は終わった」との見方も聞かれますが、リセッション期に教育・訓練の支出を増やすアメリカ人のタフな姿勢と思考は、今後もアメリカ競争力を支える重要要素の一つでしょう。

有澤保険事務所

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