「終わりのないリセッションはない」とはアメリカでよく聞かれる言葉です。リセッションはいつか終わります。その過程で競争力のない産業や企業は淘汰、縮小され、社会の変化が促され、新しい産業や企業が生まれます。リセッションが終わったとき、その後の新しい変化に適用するには、教育・訓練、自助努力、情報収集が欠かせません。
もちろん解雇され職を失った人が履歴書に「職なし」という時期が生じるのを回避したくて学校に通うという場合もあるようです。あるいは会社が倒産して、一時的に学校に退避する人もあるでしょう。しかしそうした理由によるとしても、それがその人にとって新しい知識や技能の習得の契機となり、次のキャリアにつながるならば、その支出は、やはりその人の適応力を向上させたと言えるでしょう。
一方、日本ではどの調査項目も「減らす」が「増やす」を上回っており、全般的な縮小傾向が目立ちます。このうち、教育に近い「自己啓発」は、減らすと増やすの差が小さくなっていますが、そもそも「支出予定なし」が56%にも上っています。日本で内需拡大が叫ばれて久しいわけですが、このようなデータを見るとなかなか難しいことがわかります。アメリカの事例に倣えば、日本人の勤勉性に訴える教育や訓練は、需要喚起の一つのヒントではないかと思います。
1972年にラドクリフ大学(現ラドクリフ高等研究所)の総長となったマルティナ・ホーナー氏は「重要なことは学び続けること、挑戦を楽しむこと」と述べました(ラドクリフ大学は1879年創設で、ヘレン・ケラーやブット元パキスタン首相などを輩出したことで名高い女子大。現在はハーバード大学の傘下にあります)。これは専ら学問を目指す女性を勇気付ける言葉でしたが、それにとどまるものではないでしょう。
アメリカにはいったん社会に出た人が通うための大学が非常に多く、遠隔授業を行うオンライン大学だけで4000校あると言われます。著名なところではフェニックス大学(University of Phoenix)、デヴリー大学(DeVry University)などですが、通常の大学もオンライン授業に力を入れています。国土の広いアメリカで優れた講師の授業を低価格かつ柔軟な方法で提供するには、このようなシステムはたいへん都合が良いと言えます。
手厳しいメディアからは「アメリカの時代は終わった」との見方も聞かれますが、リセッション期に教育・訓練の支出を増やすアメリカ人のタフな姿勢と思考は、今後もアメリカ競争力を支える重要要素の一つでしょう。
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