BaySpo 1074号(2009/06/12)掲載
次世代IPアドレスへの移行は進むのか
ェトロ・サンフランシスコ・センター 次長 荏原 昌
荏原 昌(えばらまさし)
2003年日本貿易振興会(ジェトロ)入会。ジェトロ入会以前は民間企業(システムインテグレーター)で新規事業企画、ベンチャーへの投資、ジョイントベンチャーの立ち上げ等を担当。2008年3月からサンフランシスコセンター次長。新潟県出身、中央大学理工学部卒業。

 読者の皆さんは主要なエネルギー資源があとどのくらいの期間利用できるかをご存じでしょうか?資源の埋蔵量を年間生産量で割った数字を可採年数といいますが、石油は40年、天然ガスが60年、石炭は少し長くて150年、原子力発電の燃料となるウラニウムは90年といったところだそうです。何とも心もとない数字ですね。もちろん、新たな鉱脈が発見されたり、より効率的な採掘方法が開発されたりして、可採年数は延びる可能性はありますが、それでも何れは枯渇する「有限」資源であることには変わりません。

 さて、実は私たちの身近なところで、もう少し早く枯渇しそうな資源があります。インターネットを利用する際にパソコンやサーバーを特定する為に使われるグローバルIPアドレスです。現在利用されているIPアドレスは「バージョン4」といい、0〜255の数字(8ビット=1バイトで表現できる数)を.(ドット)で4つ繋いだ形(計32ビット=4バイト)で表現されています。例えば、我が国首相官邸のIPアドレスは202.232.58.50と決まっています。一部の通信事業者等を除き一企業・団体・組織に1個、せいぜい数個から数十個の固有のIPアドレスが割り当てられていると理解して差し支えないと思います。IPアドレスは4つの数字の組み合わせですから、表現できる数には自ずと制限があり最大で約43億個しかありません。IPアドレスは世界が共有する資源で、国(地域)毎に割り当て数が決まっており、米国は利用可能なアドレスの約65%(約13億個)、日本はぐっと少なくて約5.8%(約1億2千万個)となっています。バージョン4のアドレス体系を定めた20年前は、まさかこれ程急激にインターネットが普及するとは思っていなかったのでしょう。総務相の調査では早ければ2010年にも日本国内で新たに割り当てるアドレスが枯渇する事態が発生するとしています。ただ、これまたエネルギー資源問題と同様ですが、当初の予想より需要が鈍化したこと、インターネットへの接続の仕方を工夫する等して、今しばらくの間、多分2014年頃までは大丈夫というのが専門家の見方になっています。

 IPアドレスが枯渇するのを座して待っている訳にはいかないので、ちゃんと次世代のIPアドレス体系の策定が済んでいて、「バージョン6(IPv6)」が既に存在しています。IPv6では、アドレス体系が大幅に変わって128ビット(16バイト)で表現することにより、何と340兆の1兆倍の1兆倍個という数を確保できます。あまりにも大きな数なのでピンときませんが、人類は「無限」と言っていいほどの資源を自ら手に入れたことになります。では、この資源をどう有効活用していくのか、という点に興味が移っていきます。過去数年間IPアドレスの枯渇問題がクローズアップされるたびに、IPv6への移行を求める声が上がり、とは言っても移行にそれなりのコストと手間がかかることから、移行を促進するための明確なメリット(キラー・アプリケーション)が求められてきました。いわく機能面からセキュリティの強化とか、あらゆる電子機器にIPアドレスを与えて相互に情報をやり取りできるユビキタス社会の実現、とかですが、どうもすっきりと納得し難いように思います。最近はキラー・アプリケーションを待望するよりも、社会インフラの再整備というくらいの意識を持って取り組むべき、という考えに変わってきているようです。日本ではIPアドレスの割り当てが少ないという事情もあり比較的IPv6への対応が進んできていますが、米国においては日本とは逆に相当な余裕があることから対応には消極的なようです。AT&TやComcastといったサービスプロバイダーですら消費者のレベルでそれと判るような動きが見られません。ただ、最近とくに注目されているスマートグリッド(IT技術を駆使し、風力や太陽光発電を取り込んだ効率的な送電の仕組み)の構成要素となるスマートメーターとIPv6は実に相性がいいはずなので、これが契機になって普及に弾みが付くこともあるかもしれません。また、読者の皆さんの中にもWindows Vistaを使っている方は多いと思いますが、Windows VistaはIPv6をフルサポートしています。もちろんインターネットサービスプロバイダと通信する相手がIPv6に対応していなければ何ら変化は見られないものの、その気になればIPv6で世界中のパソコンとセキュリティの心配をせずに、一対一で通信できる可能性を持つことは素晴らしい進歩だとは思いませんか。

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