BaySpo 1085号(2009/08/28)掲載
長い「下積み」を経験してきた環境ビジネス
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 中島 丈雄
中島丈雄(なかじまたけお)
ジェトロ・サンフランシスコ・センター調査部。1992年JETRO入社、情報システム室、中小企業庁国際室、経済産業省米州課、JETROニューヨーク調査部、海外調査部北米課などを経て、2006年10月より現職。東京都出身。主著に「韓国・中国企業の欧米市場戦略」「インドオフショアリング」(共著)など。青山学院大学国際政治経済学部卒、同大学院修士課程修了。

 過去数十年間にわたり、ベンチャー資金を集め、アメリカのイノベーションを引っ張ってきたのは、半導体、IT、通信、バイオ・医療、インターネット、メディアなどですが、これらに続く「第5」「第6」の柱として成長しつつあるのが環境技術(クリーンテック)です。しかし意外にアメリカの環境ビジネスの歴史は古く、1950年代に遡ります。そして長い下積み(?)時代があったからこそ、現在のクリーンテック「開花」への期待があると言って良いでしょう。

 アメリカでは、かつて大規模なスモッグ汚染がニューヨーク(1953年)やロサンゼルス(1956年)を襲いました。1960年代には有鉛ガソリン問題の人体や自然への悪影響が大きな問題となり、1969年にはオハイオ州クリーブランドを流れるカヤホガ(Cuyahoga River)川で、その水面を流れる油、化学薬品や浮遊物が引火し、大きく炎上する事件が発生しました。メディアが報じた「川が燃える」写真は、地上5階建てほどの高さに達するほどで、アメリカ環境汚染の象徴となり、一連の環境保護運動を高めるきっかけとなりました。

 1970年には「地球の日(アースデー)」が設けられ、12月には米国環境省(EPA)が設立されました。1971年には「全米大気質基準」ができます。環境保護団体グリーンピース(本部バンクーバー)の設立も1971年です。

 他方、1973年には石油危機が生じ、アメリカで「エネルギー自立」の声が強まりますが、環境規制の声は強く、国内の化石燃料生産は一向に拡大しませんでした。1973年に58千兆Btu(ブリティッシュ・サーマル・ユニット)だった化石燃料生産は、35年後の2008年にも57千兆Btuと、むしろ減っているほどです。

 原子力について言えば、アメリカは世界一の原子力発電量を誇りますが、制約も大きい。発電所数は1991年までに111基に増えましたが、その後は減少し現在104基(2007年)にまで減りました。プラント数の伸び悩みを原子炉の設備容量・出力増加、設備利用率上昇、設備寿命の延長(40年→60年)などで何とか補っている状況です。

 再生可能エネルギーもコスト的・技術的問題から普及が進みません。現在再生可能エネルギーが全エネルギーに占める割合は、生産で9・9%、消費で7・4%。1970年代に比べれば伸びましたが、その伸びはあまりに緩やかであり、オイルショックの後遺症で一時急増した1980年代、90年代と比べると、その水準はほとんど変わっていません。

 そして結局、今日まで消費量と海外からの石油輸入だけが増えていくという基本構造が続いています(図)。

これまでのアメリカ環境ビジネスの主流は、環境汚染に対するビジネス(空気浄化、排水処理、廃棄物処理など)でした。前述のとおり様々な環境保護措置が講じられ、1970年代から汚染防止ビジネスは着実に成長しました。調査会社EBJによると、汚染防止サービスは、1970年の65億ドルから2000

年には1056億ドルへと15倍に成長しています。この間のGDPの伸び(8倍)に比べても十分な成長力を示したと言えるでしょう。しかし、その伸び率は1970年代が最も高く、それ以降は鈍化し続けています。前年比で10%増以上の伸びを示したのは1989年が最後で、以降は1ケタ成長が続いています。

 つまりここ20年くらい、環境ビジネスは、「安定しているが大きく成長する分野ではない」と見られてきました。環境汚染防止サービスに替わって、2000年頃から「資源有効利用、新エネルギー」分野が急成長し始めます。2007年には前年比13・8%増という高い成長を示しました。同分野の市場規模は、2000年〜2010年にかけ倍増する見込みです。汚染を防ぐだけでなく、環境に優しいエネルギーを積極的に作り、作ったエネルギーを効率的に使う。これが近年注目を集めるクリーンテック/グリーンテックです。技術革新、コスト低下、政策支援、資金、人材などの重要要素の集合(エコ・システム)がうまく回り始めた結果でしょう。

 金融危機の影響で資金繰りは悪化していますし、市場の期待ほどに技術革新やコスト削減のペースは進まないことが多く、「期待、資金、実体」の三者はなかなか一致しません。しかしインターネットも、最初のTCP/IPネットワークの誕生(1974年)から、ネットバブルも経験し、数十年を経てようやく今日の地位にたどり着いたことを考えると、やはりクリーンテックも長い目で見る必要があるということでしょう。

中島丈雄
takeo_nakajima@jetro.go.jp
執筆協力:大和田貴子

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