最近、スマートグリッドというものが話題になっています。2009年2月に成立した「米国再生・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act)」において、スマートグリッドへの投資促進を含む電力配電網の近代化プロジェクトとして45億ドルが計上されたことも、米国でこの話題が盛り上がっている背景の一つですが、スマートグリッドとは一体どういうもので、私達の生活にどういう関わりがあるのでしょうか。
スマートグリッドとは、「賢い(Smart)配電網(Grid)」という意味ですが、簡単に申し上げれば、電力の配送を最適化する双方向のネットワークシステムのことを指しています。
従来の配電網は、発電所から各家庭などに対して、原則一方向のみに電力を届けるためのものですが、スマートグリッドを整備して、きめ細かく双方向に電力の流通をコントロールすることができれば、地域毎に電力網が形成され、地域内で電力を融通し合うことも可能になると考えられています。
現在は、火力発電(石炭、石油、天然ガス等)や原子力発電などで大部分の電力が賄われていますが、普通の電力会社は、これらをミックスさせて電力を供給しています。それは24時間365日必要とされる電力需要に対応するために常時稼働しているベース電源と呼ばれるものや、それ以外の、例えば真夏の日中に数時間だけ必要とされるピーク時電力に対応するための電源など、いろいろな需要に応えるための電源が必要だからです。
原子力発電や石炭火力発電などは、運転開始と停止を短時間に繰り返すことに向いておらず、長期間運転を継続する方がコスト的にも有利なため、ベース電源に利用されており、ピーク時の対応には、短時間での運転開始・停止が比較的容易な石油火力発電などを利用するのが通常です。
こういう電源のミックスはあくまでも需要家のニーズに応えるために行われていることであって、供給サイドの発電コストを抑制するという観点からは、稼働時間が少なく経済効率の良くないピーク時用の電源を可能な限り減らして、100%ベース電源で対応できるようにすることが理想です。
皆様の家庭の電力需要のパターンが隣のお宅と同じということはあり得ませんし、真夏の日中にエアコンの使用を禁止するわけにもいきませんので、100%ベース電源で対応することは不可能ですが、日中と夜間における電力需要の変動幅を小さくしていくことは可能であり、この概念を負荷平準化と言います。勤務シフトを変えて夜間に工場を稼働させたり、夜間の電力で加熱したお湯を蓄えて日中に使用することも、そういった考え方の一環です。こういった流れを後押しするため、電力会社も夜間の電力料金を日中の電力料金よりも安めに設定したりしています。
スマートグリッドによって、自家発電システムを持っている需要家から他の需要家に電力を融通したりすることができれば、地域全体としての電力需要の変動は小さくなる、つまり負荷平準化が進み、発電コストの抑制につながると考えられています。もちろん、負荷平準化は発電の効率化でもありますので、発電用のエネルギーの利用量を抑制することにもなります。
二酸化炭素を排出しないことから環境に良いとされている太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの最大の問題は、日照量や風の吹き具合などによって発電量が大きく変動し、電力網の安定性を損なうことです。発電量が大きく変動して、電力網が不安定になれば、地域全体の停電につながりかねないため、これは深刻な問題です。スマートグリッドによって、供給側と需要側のデータを把握し、需給を最適化することができれば、電力網の安定性を確保しつつ再生可能エネルギーを導入できるため、この側面からも環境保全に資すると考えられています。
米国の電力会社は事業規模が小さく、近年電力の需要が増加しているにもかかわらず、配電設備への投資はむしろ減少しているといわれています。米国再生・再投資法などの一連の動きの背後には、老朽化して信頼性の低下した米国の配電設備を、スマートグリッドの推進を通じて、信頼性が高く、コストの安いものに変革しようという意図が存在しています。
それが省エネルギーや再生可能エネルギーの導入促進につながって、環境にとっても良いものであれば、経済面と環境面での一石二鳥というわけです。
カリフォルニア州では、PG&Eがスマードグリッドの整備に積極的に取り組んでいますし、巨大なサーバーを抱え、最大のコスト要因が電力料金となっているGoogleも、コスト低減などの視点から、GEと連携してスマートグリッド事業に参入しています。スマートグリッドが家電製品や電気自動車にも接続するようになり、電気を利用した生活関連製品を効率的にコントロールできるような未来像を予想する人もいます。
|