BaySpo 1102号(2009/12/25)掲載
オンラインマーケティングとプライバシー
ェトロ・サンフランシスコ・センター 次長 荏原 昌
荏原 昌(えばらまさし)
2003年日本貿易振興会(ジェトロ)入会。ジェトロ入会以前は民間企業(システムインテグレーター)で新規事業企画、ベンチャーへの投資、ジョイントベンチャーの立ち上げ等を担当。2008年3月からサンフランシスコセンター次長。新潟県出身、中央大学理工学部卒業。

 ディープ・パケット・インスペクション(DeepPacket Inspection略してDPI。プリンタやスキャナの解像度を示す単位もDPIで表現しますが、こちらはDot Per Inchの略。コンピュータの略語は紛らわしいですね)という技術があります。ご承知の通りインターネット上でやり取りされるデータはパケットという小単位に分けられてコンピュータ間を流れています。各パケットの先頭にはヘッダが付加されていて、発信者や受信者、利用するプロトコルやデータの長さといった情報が書き込まれてデータ本体と一緒に流れます。元々DPIはパケット内の情報を分析したうえで、外部からの社内システムに対する不正なアクセスや、ワームのようなウィルスの侵入を検知するために開発された技術であり、現在ではファイヤーウォールを構成する要素として活用されています。

 さて、これからが本題です。DPIはパケットの内部を「見る」技術ですから、これを利用すればインターネットに接続している利用者がウェブサイトをどのように閲覧しているかを容易に把握することができます。例えば、ホリデーショッピングシーズンを迎えた私がポータルサイト(Yahoo!)やオークションサイト(eBay)にアクセスして特定のキーワード(「曲がらないドライバー」、「ダフらないアイアン」、「飛ぶボール」等々)を入力して検索していれば、「一向に腕前が上達しないゴルファーが新製品を探している」という興味の対象分野や行動パターンを予測することが可能になります。ならば(買う気満々な)私が見ている画面へ、広告主であるゴルフ用品メーカーの新製品情報やショップのセール情報を動的にバナー表示したり、割引クーポン付のポップアップ広告を出したりすれば、マーケティングの効果をより高めることができるという次第です。テレビやラジオと異なりインタラクティブ性の高いメディアであるインターネットだからこそ可能な広告手法(=行動ターゲティング広告)ということですね。こうした仕組みにより、消費者は有益な情報をタイムリーに入手でき、広告主は売上が伸び、インターネットサービスプロバイダはトラフィックが増えるということでWin-Win-Winの関係のような図式ですが、一方でDPIの利用に慎重な考えも当然のようにあります。

 日本では主として「個人情報保護の観点」から問題があるとする声が多いようです。総務省は今年の4月に「利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会」の下に「ライフログ活用サービスワーキンググループ」を発足させてこの問題点を検討しています。ここでいうところの「ライフログ」がDPIにより取得された個人の行動履歴等の情報を指しています。インターネット上の検索・ポータルサイト、e-コマースサイト、SNSサイト、プロバイダ、携帯電話事業者といったプレイヤーがライフログを収集して活用し得るのですが、前三者を対象としては、今年6月にインターネット広告推進協議会(JIAA)が業界として利用者への通知、利用者からの許諾、利用を拒否する手続き等を盛り込んだガイドラインを策定しています。一方、プロバイダと携帯電話事業者に関しては、契約情報や位置情報(携帯電話のGPS機能)からより詳細で広範囲な情報を収集できることや、通信の秘密、消費者保護の観点等から改めてガイドラインを作成する方向で検討が始まっています。米国では2007年12月に連邦取引委員会(FTC)が行動ターゲティング広告における自主規制原則案を発表し、これに呼応する形で広告業界団体(American Association of Advertising Agencies、Associationof National Advertisers、Direct MarketingAssociation、InteractiveAdvertising Bureau)が今年7月に利用者に対する教育の推進、保存するデータの安全性確保等、7つの原則を定めた自主規制を公表し2010年初めから適用される予定となっています。欧州においても問題の捉え方や対処に関する基本的な考え方は大差ありませんが、少し変わったところでは、イギリスのnoDPI.orgというボランティア団体がネチズン(=netizen:最近全く目にしなくなった単語ですが)の視点でインターネットサービスプロバイダによる不正なDPI利用はプライバシー、セキュリティ、通信サービスの公正性の面から問題であるとして草の根キャンペーンを展開しています。

 今回はDPIと行動マーケティング広告に着目してみましたが、技術の進展によるサービスの多様化や利用者にとっての利便性向上は、常に規制やルール化の動きと表裏一体の関係にあると思います。ただ、シリコンバレーのイノベーター達が新しいアイディアを具現化させていく過程で規制やルール化を意識することは少ないでしょうし、だからこそ自由な発想が生まれるのかもしれません。ベイエリアにはDPI関連技術を持つスタートアップが結構ありますが、それらの紹介は又の機会にしましょう。

 今年も一年間ジェトロのコーナーに目を通していただきありがとうございました。来年も引き続きよろしくお願いいたします。それでは皆様よい年をお迎え下さい。

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