BaySpo 1111号(2010/02/26)掲載
新幹線の売り込みが本格化
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 中島 丈雄
中島丈雄(なかじまたけお)
ジェトロ・サンフランシスコ・センター調査部。1992年JETRO入社、情報システム室、中小企業庁国際室、経済産業省米州課、JETROニューヨーク調査部、海外調査部北米課などを経て、2006年10月より現職。東京都出身。主著に「韓国・中国企業の欧米市場戦略」「インドオフショアリング」(共著)など。青山学院大学国際政治経済学部卒、同大学院修士課程修了。

 2010年1月28日、オバマ政権は景気回復法の一環として、全米13の高速鉄道建設プロジェクトに総額約80億ドル(73 00億円)の予算を充てることを発表しました。「高速鉄道」と言っても日本の新幹線ほどのスピードには遠く及ばず、現在走行中の多くは時速130〜160 kmというのがせいぜいですし、今回の予算措置もこれら既存路線の拡充を進めるものが多く、全米中に新幹線並みの先進鉄道網を敷設するというわけではありません。

 しかしその中でも最高速度250〜300km超の高速鉄道を導入しようとしているのがカリフォルニア州とフロリダ州です。今回予算はつきませんでしたが長期計画の中には、リニア鉄道の敷設を検討・計画中の地域もあります。豊富な実績のある日本の高速鉄道技術が米国市場で活躍する場がありそうです(これまでも在来線や地下鉄などでは実績あり)。フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、中国などの売り込みも激しさを増しており、国際的な鉄道競争が始まりつつあります。

 カリフォルニア州では2008年11月、大統領・議会選挙日に合わせて住民投票が行われ、「州縦断高速鉄道建設計画」が承認されました。オバマ大統領も「米国では、道路の混雑によって毎年80億ドルもの経済損失が生じている。フランス、スペイン、中国、日本の高速鉄道の成功を見て欲しい。我々にできないはずがない」と強い意思で高速鉄道建設推進の意思を表明しています。

 まず2020年までにサンフランシスコ〜アナハイムまでの全長465マイル(744km)の高速鉄道完成を目指し、2035年までには、州都サクラメントからサンディエゴまでの800マイル(1280 km)をつなぐ計画です。サンフランシスコ〜アナハイム間は総工費430億ドル(約4兆円:カリフォルニア州高速鉄道局(HRA)試算)に達すると言われる巨大プロジェクト。これを州(90億ドル)、連邦(170〜190億ドル)、地域(40〜50億ドル)、民間(100〜120億ドル)で賄います。

 1月初旬、カリフォルニア州高速鉄道局(HRA)はサクラメントで月例理事会(公開)を開催、ここで日本の国土交通省が新幹線技術についてプレゼンテーションをし、売り込みを図りました(他の国も実施しています)。なおJR東海が1月25日に発表した「高速鉄道の海外事業展開について」によると、同社は米国におけるN700-Iのトータルシステムの導入候補地に「フロリダ、ラスベガス〜ロサンゼルス間、テキサス、中西部」を挙げ、カリフォルニア州高速鉄道については挙げられていませんでした。いずれにせよ、米国のどこかで日本の新幹線やリニア鉄道が走る日がやって来ることでしょう。

 国土交通省は以下のような点をアピールしました。安全性と環境面について、
1. 新幹線は最大で1時間に14本が出発する過密運行スケジュールでありながら、開業以来45年間にわたり重大人身事故を起こしていない。列車の遅延も平均1分以下と極めて小さい。

2. 脱線防止、検知システムによる地震対策なども入念に施している。

3. CO2排出量は同距離での比較で乗用車の9分の1、航空機の6分の1と低い。日本では450〜700km程度の距離を移動する手段として、列車が5割のシェアを占める。自動車や飛行機の代替効果が高く、環境保護に貢献している。

4. 新幹線の車両幅はTGV-R(仏)やICE3(独)よりも広いため、座席数が多く取れ、かつ個々の座席も縦横に数インチ大きく、快適である。欧州製車両に比べ車軸あたり6〜7トン軽く、効率が高い。騒音も大幅に低減されている。

5. 新幹線開通効果の一例として、新横浜駅や佐久平駅周辺地域があり、いずれも経済発展、産業・商業施設の集積、人口増をもたらした。例えば新横浜駅周辺は1980年の完成時に商業ビルが数棟しかなかったが現在は120棟近くに増えた。佐久平駅周辺は、97年完成時からの10年間で人口が10%増加した。

6. 新幹線は台湾、中国、英国など海外で既に実績がある――といった点です。

 日本の優れた鉄道に慣れ親しんだ日本人にしてみれば、これらの説明は「実感」としてとらえることができますが、実際、理事会委員の方たちからも「高速鉄道によって地域経済が活性化し人口も増えたという事例は、とても勇気づけられる」とのコメントがありました。

 高速鉄道局によると、今後の大まかなスケジュールは、2010年中に建設を統括する企業群(team)と財政パートナーの決定、2011年に環境評価終了、2012年に建設開始となっています。

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