BaySpo 1149号(2010/11/26)掲載
住民投票でカリフォルニア州温暖化ガス削減の行方は?
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 中島 丈雄
中島丈雄(なかじまたけお)
ジェトロ・サンフランシスコ・センター調査部。1992年JETRO入社、情報システム室、中小企業庁国際室、経済産業省米州課、JETROニューヨーク調査部、海外調査部北米課などを経て、2006年10月より現職。東京都出身。主著に「韓国・中国企業の欧米市場戦略」「インドオフショアリング」(共著)など。青山学院大学国際政治経済学部卒、同大学院修士課程修了。

 11月2日の中間選挙に合わせ、カリフォルニア州で9つの案件が住民投票に付されました。このうち全米の環境政策にも影響を与えかねない事案として注目されたのが「提案23」と「提案26」。いずれもカリフォルニアの環境規制をやや緩ませる方向に進む可能性のある提案ですが、提案23は否決、提案26は可決と結果が分かれました。方向性の異なる2つの住民投票結果によってカリフォルニア州の温暖化ガス削減の行方に不透明感が出ています。

 「提案23」の柱は、カリフォルニア州「2006年地球温暖化解決法(Global Warming Solutions Act of 2006)=通称AB32」を一時停止するというもの。賛成38・9%、反対61・1%で否決されました。


提案23の賛成派と反対派の討論
(11月1日、CommonwealthClub)

 AB32は、2006年9月27日に成立。2020年までに二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)などの温暖化ガスを1990年レベルに引き下げる目標をかかげています。今年から六フッ化硫黄(SF6)の使用制限、トラックの燃費向上措置、自動車タイヤの高気圧調整などの「早期行動措置(Early Action Measures)」が始まりました。

 そして今後、キャップ・アンド・トレードなど40以上のプログラムを組み合わせて2020年に向け、CO2大幅削減を達成する計画です。

 そのAB32の本格実施に「待った」をかけようとしたのが提案23です。提案23は、AB32の実施を州の失業率が1年間(四半期)連続で5・5%以下になるまで延期するというもの。現在加州の失業率は12・4%(2010年9月)と全米平均の9・6%より高く、そもそも5・5%以下というのは極めて厳しい数字。成立すればAB32は長期にわたり休眠し続ける可能性が高いものでした。

 提案23の賛成派は、西部石油市場協会、複数の石油会社、カリフォルニア製造業・技術協会など。提案23によって、110万人以上の雇用が守られる、電気料金の値上げを6割抑制する―などと主張しました。

 他方反対派は、米国肺がん協会カリフォルニア、シリコンバレー・リーダーシップ・グループ、米国グリーンビル協議会など。「提案23が可決すればAB32は事実上廃止され、グリーンエネルギーによる経済発展、雇用創出の機会を脅かす」との主張を続けました。彼らは賛成派を3倍上回る3億1000万ドルをキャンペーンに注ぎ込み、最終的に提案23を否決に追い込みました。

 もう一つの「提案26」は、州や地方自治体が環境負荷物質・行為、アルコール、たばこなどに対する新たな費用・手数料(fee)を導入する場合、成立の条件を議会の過半数ではなく3分の2に引き上げるというもの。これは賛成52・9%、反対47・1%で可決となりました。

 現在、税金(tax)の引き上げは3分の2の賛成が必要となっており、feeについても同じ扱いとするものです。カリフォルニア州民や企業は、高い税金に加え、日常さまざまな手数料を取られており、これが「隠れ税金(hidden tax)」であるとの不満は確かにあります。「Feeが上がりにくくなることは歓迎」と考えた有権者が多くいたとしても不思議ではないでしょう。

 提案26の可決によって、新たな手数料や過料の徴収が難しくなります。提案26は、石油会社シェブロン、カリフォルニア商業会議所、米国飲料協会、フィリップモリスらが支持を表明していました。

提案26の可決に対し危機感を募らせる声が出ています。「過料を課せないのであれば、AB32は事実上有名無実化する」(カリフォルニア中小企業連名)、「健康、安全、環境など手数料収入に頼る広範なプログラムに悪影響がある」(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)、「キャップ・アンド・トレード実施に伴なうカーボン・クレジット価格も、議会の3分の2の賛成がないと決まらない恐れがある。3分の2の獲得は不可能に近い」(アトランティック誌)といった声です。

 ただし、住民投票の結果は絶対ではありません。可決された提案が既存の法律や規則と齟齬(そご)をきたし、法廷に持ち込まれることは珍しくありません(2008年には同性婚を禁止する提案8が可決したものの、訴訟が相次ぎ、なお係争中)。カリフォルニア州大気資源局ニコラス委員長は、記者会見で「AB32に限って言えば2006年に成立した法律であり、その実施は阻害されない」との見解を示しています。しかし「法廷闘争は避けられない」(有識者)との見方が支配的で、AB32はその本格実施を前に大きな不安要因を抱え込んだことになります。

有澤保険事務所

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