そのAB32の本格実施に「待った」をかけようとしたのが提案23です。提案23は、AB32の実施を州の失業率が1年間(四半期)連続で5・5%以下になるまで延期するというもの。現在加州の失業率は12・4%(2010年9月)と全米平均の9・6%より高く、そもそも5・5%以下というのは極めて厳しい数字。成立すればAB32は長期にわたり休眠し続ける可能性が高いものでした。
提案23の賛成派は、西部石油市場協会、複数の石油会社、カリフォルニア製造業・技術協会など。提案23によって、110万人以上の雇用が守られる、電気料金の値上げを6割抑制する―などと主張しました。
他方反対派は、米国肺がん協会カリフォルニア、シリコンバレー・リーダーシップ・グループ、米国グリーンビル協議会など。「提案23が可決すればAB32は事実上廃止され、グリーンエネルギーによる経済発展、雇用創出の機会を脅かす」との主張を続けました。彼らは賛成派を3倍上回る3億1000万ドルをキャンペーンに注ぎ込み、最終的に提案23を否決に追い込みました。
もう一つの「提案26」は、州や地方自治体が環境負荷物質・行為、アルコール、たばこなどに対する新たな費用・手数料(fee)を導入する場合、成立の条件を議会の過半数ではなく3分の2に引き上げるというもの。これは賛成52・9%、反対47・1%で可決となりました。
現在、税金(tax)の引き上げは3分の2の賛成が必要となっており、feeについても同じ扱いとするものです。カリフォルニア州民や企業は、高い税金に加え、日常さまざまな手数料を取られており、これが「隠れ税金(hidden tax)」であるとの不満は確かにあります。「Feeが上がりにくくなることは歓迎」と考えた有権者が多くいたとしても不思議ではないでしょう。
提案26の可決によって、新たな手数料や過料の徴収が難しくなります。提案26は、石油会社シェブロン、カリフォルニア商業会議所、米国飲料協会、フィリップモリスらが支持を表明していました。
提案26の可決に対し危機感を募らせる声が出ています。「過料を課せないのであれば、AB32は事実上有名無実化する」(カリフォルニア中小企業連名)、「健康、安全、環境など手数料収入に頼る広範なプログラムに悪影響がある」(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)、「キャップ・アンド・トレード実施に伴なうカーボン・クレジット価格も、議会の3分の2の賛成がないと決まらない恐れがある。3分の2の獲得は不可能に近い」(アトランティック誌)といった声です。
ただし、住民投票の結果は絶対ではありません。可決された提案が既存の法律や規則と齟齬(そご)をきたし、法廷に持ち込まれることは珍しくありません(2008年には同性婚を禁止する提案8が可決したものの、訴訟が相次ぎ、なお係争中)。カリフォルニア州大気資源局ニコラス委員長は、記者会見で「AB32に限って言えば2006年に成立した法律であり、その実施は阻害されない」との見解を示しています。しかし「法廷闘争は避けられない」(有識者)との見方が支配的で、AB32はその本格実施を前に大きな不安要因を抱え込んだことになります。
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