BaySpo 1157号(2011/01/28)掲載
イノベーションはなぜ必要か
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 次長(BIC担当) 中園 雅巳
中園 雅巳(なかぞの まさし)
 平成元年、通商産業省(現経済産業省)入省。同省統括技術戦略企画官(イノベーション政策担当)、特殊関税等調査室長などを経て、2010年7月より現職。東京大学工学部卒、ロンドン大学大学院修士課程修了。

 経済成長における「イノベーション」の重要性については、最近の日本政府の成長戦略、民間シンクタンクの報告書、学者の方々等多くの方から指摘されています。私が勤務するオフィスもJETRO US-Japan Business “Innovation" Centerであり、ここでも我が国の起業家の支援を行うことによって「イノベーション」の創出を目的にしています。今回は、所与のものになっている、経済成長において「イノベーション」がなぜ必要なのかを簡単に考えてみたいと思います。

 経済政策の最大の目的は、経済成長を実現することです。これは世界各国のどの政府においても同様です。一般的に、経済成長は、3つの要素により決まると言われています。いわゆる「労働投入増加の寄与」、「資本増加の寄与」、「全要素生産性の寄与」と言われるものです。「労働投入の寄与」については、文字通り働く人の増加によるものです。働く人の人数が増加すれば、それに伴い、生産も増加し、創出される付加価値も増え経済成長につながります。また、「資本増加の寄与」については、投資の効果によるものです。投資が増加し、新規の生産設備の導入や生産ラインの増強などが進めば、それに伴い生産も増加します。

 これに加えて、「全要素生産性の寄与」と呼ばれるものがあります。全要素生産性とは、英語ではTotal Factor Productivity(TFP)とも呼ばれるものです。技術的な進歩による効率性の向上、規模の経済性、ビジネスモデルの革新などにより引き起こされる、「労働投入の増加」や「資本の増加」といった生産要素の投入では説明ができないものを含む概念です。このうちの相当の部分が、技術革新等のイノベーションによるものであると考えられています。

 それでは、最初の2つの要素を今の日本の現状に当てはめてみていきます。

 まず、「労働投入」について見てみましょう。日本では、少子高齢化が急速に進んでいます。現在、我が国の総人口は約1億3千万人弱ですが、うち約23%の方(約3000万人)が65歳上の高齢者であり、これは2055年には40%を超えることが予想されています。これに対して、15歳から64歳までのいわゆる生産年齢人口は、平成17年の約8500万人から2055年には4600万人に減少することが予想されています(国立社会保障・人口問題研究所推計)。つまり、労働投入は、我が国においては今後、大幅な減少が見込まれ、経済成長の要素としては期待できないことは明らかです。

 次に、「資本の投入」について見てみます。我が国の個人金融資産(個人が保有している金融資産の合計)は、約1500兆円あると言われています。これらの資産は、その大部分を高齢者が保有し、その多くが金融機関における預貯金等の形態をとっています。これらの金融資産は、金融機関を経由して、いろいろな産業、設備、インフラ等への投資資金として活用され、「資本」として経済成長の一翼を担っているわけです。しかしながら、今後は、この個人金融資産はどんどん減っていくことが予想されています。これは、先に述べたように高齢者が増加するからです。高齢者が増加すると、当然、過去の預貯金を取り崩して生活費に充てることが増えてきます。我が国社会の高齢化の進展に伴い、これら個人金融資産も減少してしまい、結果として、投資にまわる資金が少なくなります。このため、「資本の投入」についても、経済成長の要素としては期待できないことになります。

 このように、長期的に我が国の経済成長を考えた時に、「労働投入」、「資本の投入」にはほとんど期待ができないため、残りの要素である「全要素生産性」、とりわけ、そのうちの大きな部分を占める技術革新によるイノベーションに、一身に期待が集まるわけです。しかしながら、我が国の全要素生産性は必ずしも高くありません。少しデータが古いのですが、平成18年度版の科学技術白書によると、1990〜95年の間と1995〜2003年の間の全要素生産性の上昇率の変化を主要国と比較してみると、カナダ、米国、フランスの全要素生産性の上昇率が増加しているのに対して、我が国は英国、ドイツ、イタリアと同様に低下している状況です。

 このような状況の下、イノベーションをどのように創造していくか。これには、なかなか明確な解はありません。ただ、このままイノベーションの創出が行われないと、我が国の経済成長を維持することが困難であることも、また、事実であります。

 日本には過去、ソニーのウォークマンをはじめ、世界に大きな影響を与えたイノベーションを創出した事例も少なからず存在します。また、クリーンテック等の分野において優れた技術力を持つ中小・ベンチャー企業も多く存在します。日本人留学生数の減少等日本の内向き志向が強まっていることに一抹の不安は感じますが、このような企業が頑張っている姿を見ると、まだまだ、日本はやっていけると個人的に感じています。

有澤保険事務所

自動車保険をはじめ、火災保険、アンブレラ、ビジネス保険、労災保険、生命保険、健康保険などを取り扱う総合保険会社です。Farmers
Insurance、Blue Cross等のエージェントであり、日本語できめ細やかな安心のサービスを提供しています。

有澤保険事務所
2695 Moorpark Ave, Ste 101, San Jose, CA, 95128
http://www.arisawaagency.com

有澤保険事務所
(408) 449-4808
No Reproduction or republication without written permission
Copyright © BAYSPO, Inter-Pacific Publications, Inc. All Rights Reserved.