BaySpo 1165号(2011/03/25)掲載
災害時対応としても期待されるスマートグリッド、マイクログリッド
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 中島 丈雄
中島丈雄(なかじまたけお)
ジェトロ・サンフランシスコ・センター調査部。1992年JETRO入社、情報システム室、中小企業庁国際室、経済産業省米州課、JETROニューヨーク調査部、海外調査部北米課などを経て、2006年10月より現職。東京都出身。主著に「韓国・中国企業の欧米市場戦略」「インドオフショアリング」(共著)など。青山学院大学国際政治経済学部卒、同大学院修士課程修了。

 3月11日に襲った東北関東大震災。その圧倒的な威力によって、ありとあらゆるインフラが壊滅的打撃を受けました。被害に遭われた方々やその関係者のみなさまは本当に辛い日々が続いていることと思います。ジェトロにも企業や個人の方々から、多くの激励メールが届いています。被災地では現在もなお水、医薬品、食料、燃料、衣類、通信、情報などあらゆる有形無形の支援が不足しているとのことです。

 電気・電源の寸断も深刻です。原発事故の発生と拡大も、電源を失ったことがその最大の原因でした。現在米国はじめ各地でスマートグリッドやマイクログリッドを進める動きが見られますが、これは災害対策としても有効な考え方です。

 2003年の米国北東部大停電では、5000万人の人々(私もその一人)が最大で2日半、真夏の中を電気のない生活を強いられました。一定以上の高層階では、上下水もガスもダメになりました。オフィス電話、パソコンも使えず、ただでさえ回線が繋がらない状態に置かれる中、携帯電話のバッテリーもジワジワと減り続けます。5分後に回復するのか1週間かかるのかもわかりません。ガソリンスタンドも動きません。うだるような暑さの中、多くの人が夜も真っ暗な路上で過ごしました。わずか2日半間の停電のみ(地震も津波も原発事故もない)でこの状態ですから、被災地の方々のご苦労は想像を絶します。

 米国の電力系統の老朽化は繰り返し指摘されてきました。変圧器の多くは40年前、回路遮断器は平均30年前に設置されたものだそうです。これを情報技術や蓄電技術を投じて近代化しようとするのがスマートグリッドの基本的な考え方です。国や地域によって導入の背景は様々ですが、主なものを挙げると
@再生可能エネルギーの導入とその制御、
A電力のムダ削減や省エネ、効率化、
Bピーク対応(需要対応、負荷平準化)、
C電力料金回収のコスト削減、
D電気自動車との接続など新たなサービス、
E停電等の障害対応、
F災害時対応・安全対策との連動
…などです。

 いずれも重なる部分を持っていてはっきり分けることはできません。そして今のところ米国のスマートグリッド業界では@〜Eに対する意識が強いようですが、今回の震災の惨状を見ると、F災害時対策・安全対策との連動も大きなメリットと言えます。特に電源の確保や電力の融通という点で、大きな期待が持てます。平時には風力、太陽光、地熱発電、燃料電池、ヒートポンプなどの自然エネルギーを利用した電源が「分散」して系統に連携され、余剰電力は「分散」した蓄電池に貯められ必要に応じて電力を供給します。送配電系統も網の目状に整備され、時にローカル、時に広域に需給を調整します。

 風力も太陽光発電も出力が一定しないため、平時には頼りなく厄介な電源ですが、自然エネルギーであるために電源を失うような大震災時には俄然頼りになってきます。蓄電池も高価な割に普段は補助的にしか使われないのですが、非常時には自然エネルギーと組み合わせて頼みの綱になります。他にもさまざまなセンサーや回路によって障害を迅速に切り分けたり、問題のない配電網に電力を迂回させたり、電力消費を強制的に抑制したり、太陽電池や小型風力を被災地に設置し系統につなげたりと、平時にはない仕組みを発動することができます。

 このような分散システムは高い導入コストやその制御の難しさが問題視され、結局誰かが負担することになるという課題が残っています。しかし今回のような有事の発生を考えるならば、上下水、橋、道路、港湾などと並ぶインフラの重要要素と位置づけられるでしょう。

 また、これを限られた地域に展開した「マイクログリッド」は、特に災害時対策に優れていると言えるでしょう(図)。広域の系統から切り離しても自立できる仕組みは、そもそも耐性に優れたものですし、他の系統の影響を受けにくく、必要な場合は系統からの「支援」を受けたり、逆に他の系統を助けることもできます。
 もちろん災害対策は、想定されるシナリオ、その確率、メリット、投下コストなど様々な要素の兼ね合いで初めて実現できますから、無尽蔵に資金を投入しても負担が大きくなり過ぎます。均衡点を探りながら時間をかけた発展になるはずです。カギの一つは「分散」です。リスクの分散、コストの分散、時間・地域の分散、採用する技術の分散。時間をかけて持続的なエコシステム(生態系)を作るということでしょう。

 さて、最後に私事になりますが、この4月にベイエリアでの任期を終えて東京に帰任することになりました。東海岸も含めて米国駐在はトータルで9年になりました。引き続き日本と海外のビジネス関係の強化のため、そして震災からの復興に微力ながら貢献したいと思っています。お世話になりました。
takeo_nakajima@jetro.go.jp

分散型エネルギーシステム「マイクログリッド」


出所:NEDO

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