BaySpo 1169号(2011/04/22)掲載
英語社内公用語化の動きに思う
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 次長(BIC担当) 中園 雅巳
中園 雅巳(なかぞの まさし)
 平成元年、通商産業省(現経済産業省)入省。同省統括技術戦略企画官(イノベーション政策担当)、特殊関税等調査室長などを経て、2010年7月より現職。東京大学工学部卒、ロンドン大学大学院修士課程修了。

 ファーストリテイリングと楽天が、英語を社内公用語とすることを決定したことをご存知の方は多いと思います。ファーストリテイリングは2012年から全ての社内会議を英語で行い、書類等も英語に統一することを2010年6月に発表しました。楽天はすでに幹部の会議を英語にしていますが、2012年から完全に英語を社内公用語化することを発表しています。これは会議のみならず、書類、電話、社内メールも全て英語で統一することを意味しています。その他にも、商社を中心に会議を英語で行ったり、英語公用語化の導入に向けた検討を始めたりという動きは多数存在します。英語の必要性が叫ばれて久しい我が国ですが、近年特にTOEICでスコアを取ることを採用や昇進の基準として明確に掲げる企業も増えています。

 こうした動きの背景には、企業の経済活動が急速にグローバル化していることを挙げることは論を待ちません。国内市場が人口の減少に伴い縮小していく中で、企業が一層の成長を求めて、海外、特に新興国に進出していくことは自然な流れと言えるでしょう。新興国は、低コストでの生産を可能とする生産拠点としてのみならず、需要を生みだす消費国としても魅力的です。そうした新興国を含めた海外の需要に応えるために、現地の事情に精通した外国人を積極的に登用していく動きは、今後も加速していくと思われます。

 こうした状況の中で現れてきた英語社内公用語化の動きには当然、利点とともにいくつかの課題も指摘できるでしょう。
 利点としては、迅速かつ的確なコミュニケーションが可能となることです(もちろん、そのためには日本人スタッフの英語力が十分に高いことが前提となりますが)。英語に統一することにより、言語の違いによる日本人と外国人の間の誤解を避けることも可能となるでしょう。また、英語を社内公用語化することは、優秀な外国人を雇用するうえでも有利に働くことが期待されます。その日本企業は、外国人とともに働いていこうとする意欲があることを世界にアピールすることができるからです。英語で仕事ができるならば、日本企業で働いてみようと考える外国人は増えるはずです。

 しかし、現実には、課題も多いことは容易に想像がつきます。英語を公用語化すると宣言したところで、現実的に英語で実務がこなせるのか疑問視する向きも当然あるでしょう。ビジネスにおける会話が、それほど単純ではないことは申し上げるまでもありません。単に英語研修を強化するといった方法で、微妙なニュアンスを含む実際の会話を乗りきれないことは、少なくとも当面は自明と言ってもよいかもしれません。国内の仕事への支障や、英語以外の実務の軽視、また単に英語のできる人が優遇されるといった人事管理上のひずみが生じる懸念もあります。適正な人事評価のあり方に十分な配慮が必要となるかもしれません。

 これらの課題を考慮しても、なお我が国がこれから世界の市場の中で生き残っていくためには、日本企業で働いてみたいと思う外国人を積極的に惹きつけ、採用してくことが不可欠ではないでしょうか。そして、これは個々の企業の利益に資するということにはとどまりません。

 より大きな観点でいえば、日本に興味を持ち、日本との関係で生きていきたいと考える外国人を一人でも増やすことは、正しく国益に適うと思われます。国と国との利害が渦巻き、情報が飛び交い、さまざまなレベルでの交渉の能力が問われる現在の世界情勢の中で、日本を理解し、日本企業と利害を共にする外国人を一人でも多く育てていくことは国家としても重要な課題ではないでしょうか。それは、一言でいえば、国際社会の中で友人をつくることに他ならないからです。

 ともすれば、日本は情報発信能力が低く、国際舞台でのパフォーマンスがいまひとつさえず、孤立する運命を背負っていると語られがちです。シャイで自己主張が苦手な国民性でも、少し損をしているかもしれません。しかし、それらのことを明確に認識するならば、それを払拭できるのは、地道な人と人との交流にあることに思い至ります。何より、ともに汗をかいて仕事をすることは、お互いを理解するための最良の方法であるわけですから。

 英語を社内公用語化したり、それに伴って外国人スタッフが増加したりする過程では、おそらくさまざまな問題が起こってくるでしょう。現場に立つ者の全てが、異なる歴史、文化、価値観の中で育ってきた人間とどのようにコミュニケーションをとり、議論し、協調していくのかという問題に直面せざるを得ないからです。しかし、そうした一つ一つのことと向き合っていく中で、我々は否応なしに「日本人とは何か」、「日本企業の誇れるものは何か」、また「我々が外国人とともに分かち合うことのできる価値観とは何か」と自問することになるでしょう。そうした動きの中に、我が国の進むべき新たな道筋が開けていることを期待しています。

有澤保険事務所

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