BaySpo 1187号(2011/08/26)掲載
「ヘルス2・0」医療とITの融合から生まれた新しいムーブメント
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 次長 木村 洋一
木村 洋一(きむら よういち)
91年4月日本貿易振興会(ジェトロ)に入り、海外調査部、企画部などを経て2011年4月より現職。98年3月〜2002年8月ジェトロ・ニューヨーク勤務。早稲田大学政治経済学部卒。東京都出身。

 EHR(電子カルテ)・PHR(個人の医療情報)から、患者向けのSNS、そしてスマートフォンを使った遠隔医療に至るまで、ヘルスケアITといわれる分野には、新製品やサービスが次々と市場に投入されています。こうしたなかで、「Health 2.0」という、ベイエリア発の新しいムーブメントが注目を集めています。

患者がつくる医療・健康
 「Health 2.0」はWeb 2.0をなぞらえた言葉。ヘルスケアの世界にウェブやモバイル技術を応用・融合して、「患者が自身でつくりだす(user-generated)医療」の実現を目指すムーブメントと捉えてよいでしょう。
 別表にあるとおり、患者と医師での医療データ共有を可能にするほか、患者や家族の経験を蓄積した「集合知」を活用できるようにしたり、患者や医師に「ソーシャルな」コミュニケーションの場を、ITツールを使って提供する点が特徴となっています。
 こうした動きをけん引しているのが「Health 2.0」という業種横断コミュニティです。大手IT企業からシリコンバレーのスタートアップ企業、医療保険プロバイダーから医療機関まで、さまざまな企業・団体がメンバーに名前を連ねています。
 ここでは、ジェトロが同コミュニティのコンサルタント部門「Health 2.0アドバイザーズ」のマルコ・スミット社長へ行ったインタビューを引用しながら、この新しいムーブメントの一端をご紹介していきます。

患者が患者から学ぶ
ムーブメントの背景は。
 ヘルスケアシステムを、草の根ベースで変えていこうとする取り組みが契機だ。病院や医師の力を借りずに、同じ体験をした患者同士で、ウェブを使って情報を分かち合おうとする動きがHealth 2.0と呼ばれるようになった。

ITと医療の融合で生まれた価値とは。
 患者、企業に大きなメリットがもたらされた。患者は、ある症状に見舞われても、同じ経験をした患者同士で情報を分かちあえる。「患者が患者から学ぶ」だ。一方、従業員に医療保険を提供する企業は、福利厚生費を抑制できる。

Health 2.0での議論から見えてくる、医療機器の将来像は。
 患者の行動パターンを知り、今後に活かせるようなデータこそ、医療や健康に役立つ。一つの機器でいろいろなデータを一挙に集め、患者自身が自分のニーズに合わせカスタマイズできるとよいのでは。
 装着すればカロリー消費量や睡眠の状態を計測できる小型機器の開発が進んでいる。日本企業には、機器の開発を一から始めるのではなく、既にあるiPhoneや血圧計にインテリジェント機能を足すようなアプローチを勧める。

カンファレンスはアジアでも
欧州でもカンファレンスを開催した。
 インドなどアジアでも開催する予定だ。カンファレンスでは、参入しようとする企業に成功例を示せる。米国のイノベーションがいかにアジアのシステムに統合できるかを学ぶ機会でもある。

社会的なインパクトは。
 米国人は長い間、経済的な自由を得ることが幸せを導くと信じてきた。しかし、最近では健康も生活の質を維持するために必要不可欠ということに気付いている。患者が、健康や病気に何らかの対策を自身で練れるようになり、「病気になったら仕方がない」と諦めなくて済むようになる。それがHealth 2.0なのだ。


 この9月25〜27日には、ここサンフランシスコで「Health 2.0 Fall Conference in San Francisco」というカンファレンスが開かれます。ここでの議論は、将来どんな製品やサービスが市場の評価を得られるかを展望する上で、日本企業にとってもヒントの宝庫となるでしょう。
執筆協力:横山沙織

 

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