BaySpo 1204号(2011/12/23)掲載
ソーシャル・メディアと共に加速するゲーム・ビジネス
ェトロ・サンフランシスコ・センター 次長 荏原 昌
荏原 昌(えばらまさし)
2003年日本貿易振興会(ジェトロ)入会。ジェトロ入会以前は民間企業(システムインテグレーター)で新規事業企画、ベンチャーへの投資、ジョイントベンチャーの立ち上げ等を担当。2008年3月からサンフランシスコセンター次長。新潟県出身、中央大学理工学部卒業。

 「Serendipity(セレンディピティー)という英語の単語があります。「セレンディピティーとは、何かを探しているときに別の価値あるものを見つける能力・才能のこと」と解説されていて、英語以外では一語で同じ意味をあらわす単語は無いと考えられています。ちなみに私の英和辞典では「掘り出し物をみつける才能、掘出し上手」と訳されています。ノーベルによるダイナマイトの発明やフレミングによるペニシリンの発見等がセレンディピティを発揮したエピソードとして有名です。社会規範や人間関係が複雑化する現代に不可欠な能力のひとつがセレンディピティーである、というのは言い過ぎでしょうか。

 米国Entertainment Software Association(ESA)が2011年6月に発表した調査結果によれば、保護者の68%はコンピューター・ゲームをプレイすることは、子供の精神面や教育面に良い影響があると回答し、過半数が親子関係や友人関係の構築と維持に良い影響があると回答しています。理性では納得するものの感情的には「うーん」と首をひねりたくなりますが、公表された調査結果は米国の親御さん達を代表する認識なのでしょう。ただ、私は首をひねる一方で、ゲームをプレイすることにより、冒頭で触れたセレンディピティを高めることができるのではないか、という仮説を持っています。「Final Fantasy」、「Call of Duty」、「Angry Bird」等など、ジャンルは異なっても設定されたステージを一つひとつクリアしていくには、状況に応じたダイアローグの選択、敵の出現パターンの予測、パズルの攻略手順といった仮想空間における経験値を積み重ねていくことが求められ、これが現実社会における問題解決のヒントを探す力やひらめき力を養うに違いない、と考えるのは飛躍し過ぎでしょうか。

 フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは今年9月22日にユーザ数が8億人を超えたと発表しました。フェイスブックに代表されるソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)の爆発的な普及により、SNSを介して相手とコミュニケーションを取りながらプレイを進める「ソーシャル・ゲーム分野が急速に拡大しています。フェイスブック全体のデイリー・アクティブ・ユーザー(DAUs=日常的にゲームを行うユーザー)は5億人を超えており、中でも最大のシェアを持つZyngaは創業からわずか4年でDAUsのトップ10に6本がランクインするソーシャル・ゲーム界の巨人に急成長しました。以前、本コーナーでスマホの普及状況をテーマに書かせていただいた際、iPhoneアプリの登録本数は17万本余り(多くて20万本とも)でしたが、現在は40万本を超えています。わずか1年あまりで倍増しているのには驚くばかりです。iPhoneのゲーム・アプリはルールが簡単で短時間でプレイできる「カジュアル・ゲームの範疇に整理されると思いますが、ソーシャル&カジュアル・ゲーム市場の急速な拡大に注目が集まっています。Big Fish Gameというシアトルにあるカジュアル・ゲームの配信会社によれば、同社の顧客層(無料ゲームをプレイするだけでなく、有料版を購入する顧客)は75%が25歳〜65歳の「女性」だそうです。とくに40代後半の子育てが一段落した主婦層がヘビー・ユーザーのようで、「ホッケー・マム」ならぬ「ゲーム・マム」が新作の発表会やフィードバックに欠かせない存在となっているそうです。また、同社は日本語を含む10カ国語でゲームを配信しており、北米以外の売上比率が50%を超えているというのも興味深い話でした。ゲームに限らずデジタル・コンテンツの配信ビジネスではどんどん国境の概念が希薄になっていくような気がします。もちろん、文化、モラルの違いや著作権の扱い等といった課題は厳然として残りますが、米国のポータル(入口)を介して世界市場へアクセスするモデルが確立するのもそう遠くないことでしょう。

 ジェトロは、毎年3月にサンフランシスコで開催されるGame Developers Conference(GDC)に合わせ、日本のゲーム開発企業と海外企業のビジネス・マッチングのお手伝いをさせていただいております。来年のイベントには11社が参加する予定で、各社の期待の大きさを感じます。ベイエリアにこれほど厚いゲーム産業の集積があることに今更ながら驚いておりますが、円高を背景に同分野でベイエリア(とくにサンフランシスコ市内からバーリンゲーム、サンマテオ辺り)への進出を検討される日本企業さんからの問い合わせが増えてきています。SNSの急成長をビジネス・チャンスと捉える各社の進出目的は明快ですが、是非セレンディピティの発揮もお忘れなく。シリコンバレーらしい「何か」がきっと見つかることでしょう。

 今年もジェトロの「ビジネス最前線」コーナーをご愛読いただきありがとうございました。執筆者を代表して御礼申し上げます。2011年は悲しく痛ましい年として記憶されることになりますが、2012年が明るい晴れやかな年になるよう心から祈念いたします。来年もどうぞよろしくお願いいたします。

有澤保険事務所

自動車保険をはじめ、火災保険、アンブレラ、ビジネス保険、労災保険、生命保険、健康保険などを取り扱う総合保険会社です。Farmers
Insurance、Blue Cross等のエージェントであり、日本語できめ細やかな安心のサービスを提供しています。

有澤保険事務所
2695 Moorpark Ave, Ste 101, San Jose, CA, 95128
http://www.arisawaagency.com

有澤保険事務所
(408) 449-4808
No Reproduction or republication without written permission
Copyright © BAYSPO, Inter-Pacific Publications, Inc. All Rights Reserved.