BaySpo 1222号(2012/04/27)掲載
米国の政治とビジネスについて
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 事務所長 岡田 俊郎
岡田 俊郎(おかだ としろう)
84年通商産業省入省、94年より3年間外務省在ブラジル日本国大使館一等書記官として日系企業の誘致に携わり、97年、資源エネルギー庁エネルギー環境対策室長に就任。2011年7月、ジェトロサンフランシスコ所長に就任し現在に至る。

 今年は4年に1度の大統領選挙の年ですが、現職の民主党・オバマ大統領に対抗出来る強力な候補者を選出しなくてはならない共和党では、今月に入って、これまでの予備選挙や党員集会の結果を踏まえた候補者間の動向が急展開を見せ、少なくともペンシルバニアの予備選挙までは選挙戦を続けると見られていたサントーラム氏が候補者辞退を表明し、事実上ロムニー氏一本に絞られる形となり、これからいよいよ民主党現職候補対共和党の半年間強にも及ぶ長丁場の大統領選挙戦の火蓋が切って落とされます。
 そこで4月、8月及び12月の3回にわたる本稿の連載では、大統領選挙の動向や結果にも触れながら、米国の政治とビジネスについて触れていきたいと思いますが、その第1回である今回は、現在の大統領選挙で最大の争点となっている雇用について見ていきます。

@人的リソースのシフトと教育制度
 そもそも今なぜ米国でこれほどまで雇用が課題となっているのでしょうか。
 その背後には、世界全体の経済発展によって産業化が広がったことによって、生産面においても需要面においても、新興国の占める位置付けと産業的な競争力が格段に高まったことによって、従来の先進国が工業国として持っていた比較優位が格段に薄れてしまったことがあります。一方で、イノベーションの原動力となるような研究開発や情報通信技術の分野におけるソフトウエアなどは、世界の経済が発展すればするほど、質の面でも量の面でもより高度な成果を求められるようになってきていますが、こうした仕事の担い手は決して足りているというわけではないので、本当に必要とされている分野・領域への人的リソースのシフトが大胆に行われていれば、雇用はこれほどまで切実な課題になっていなかったかもしれません。
 こうした人的リソースのシフトは教育制度の変革を通じて行う必要がありますが、北欧諸国では今日の経済の在り方を見越した研究開発型・継続学習型の教育への大胆な変革を90年代から行ってきたことが産業競争力の向上に直結したと言われています。その背後に国家としての政治的決断が存在したことは言うまでもありません。
 日本の格言で言えば「米百俵」、経済協力の世界で言えば「魚を与えるよりも魚の釣り方を教えよ」という表現が当てはまりますが、公共工事(将来に向けた投資として不可欠な事業には果敢に取り組むべき一方で雇用創出に主眼があるものの実施には疑問)によって当面の雇用を確保するより時間はかかっても自ら継続的に価値を創造することで仕事を作り出せるような人材を社会において拡大再生産するようなムーブメントとその実践に向けた具体的な仕組を確立するための決断を行うことこそ、地味ではあっても長い目で見てジワジワ効果を発揮してくるものであり、ビジネスから政治への最大の期待の1つではないでしょうか。大統領選挙の動向の中でも各候補者のこの点に関する具体的方針に注目していきたいと思います。

A老後に向けた年金や貯蓄の
 不足と若者の就職難
 労務関連業務に携わる皆様は特によく御存知のことと思いますが、米国の雇用制度には定年がありません。やむを得ない状況の中でレイオフされなければ何歳まででも働けるというわけですが、古き良き時代には大企業の企業年金制度が充実していて年金受給に適格になる勤続年数や年齢に達すると老後に向けた貯蓄もそれなりに充実して悠々とリタイア生活に入れました。ところが、近年では、米国でも地方政府を含む多くの組織において、年金の積立不足の問題が顕在化しており、経営不振に陥った企業に至ってはチャプター・イレブンを通じた再建によって年金ベネフィットは大きく制限されることとなりました。また、古き良き時代に比べて資産運用利回りも低下しています。これらの結果、悠々自適のリタイアに入れるのは本当に恵まれたケースと言われるようになり、定年がないことも作用して働き続ける人々が増えてきています。
 これは、若者から見れば、なかなか「席」が空かないことを意味するもので、レイオフで一端職を失った中高年層にとっての再就職難に厳しいものがあるのに加え、大学卒業者の就職がなかなか決まらないことに繋がっています。中には何万ドルもの借金を背負って大学を卒業した人たちもおり、昨年来の「オキュパイ・プロテスト」の背景にはこうした事情があることも見逃せません。この話は、米国流「世代間闘争」の一面であり、米国においても存在する社会保障費用の世代間負担の問題と併せて、ビジネスにとってのサステイナビリティ確保の観点から、政治の場における課題設定、議論展開や意思決定の在り方は大いに注目され、大統領選挙におけるディベートのテーマの一つとして取り上げられて有意義な議論が行われることを期待するところです。
(以下、8月号に続く)

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