最近、ジェトロBICにおいても日本の起業家からシリコンバレーでビジネスを始めたいという相談を受けることが多くなってきました。この背景としては、特にIT分野では、クラウドの開発環境の整備が進み、起業コストが大幅に低下していることが挙げられます。パソコン1台あれば少額の資金でも起業が可能となってきているわけです。
このような少額の資金で起業する起業家の受け入れ先となっているシードアクセラレータと呼ばれる施設がシリコンバレーにはいくつか存在します。その代表的なものが、Y Combinatorと500 Startupsです。これらのシードアクセラレータが既存のインキュベーション施設と大きく異なるのは、スタートアップに対し資金的な援助を行い、自らもステークホルダーとしてこれらの企業の成長にコミットをする点にあります。同様の事業を行う機関は全米でも増加していますが、シリコンバレーにあるこれら2つのアクセラレータは、全米でもトップクラスの成果をあげています。最近Forbesが発表した全米のインキュベータ/アクセラレータのランキングにおいても、Y Combinatorは第1位、500 Startupsは第8位にランキングされています。
これらのアクセラレータは、年間2回〜3回ほどスタートアップを募集・選抜し、通常2万ドルから10万ドルの少額投資を行います。Y Combinatorの場合は、これとは別にエンジェル投資家等から15万ドル程度の資金が提供されているようです。このような小額投資を行う一方、これらアクセラレータは、期間を区切って(通常は3〜4か月間)ビジネスモデルの改善、資金調達の方法等についてメンターが指導・助言を行う集中的な支援を行うプログラムを提供しています。また、過去の卒業生やメンターを通じ、投資家等シリコンバレーにおけるネットワークに加われることも特筆すべき点です。
このような支援の結果、これらアクセラレータは多くの有力企業を輩出しています。例えば、Y Combinatorの卒業生の中には、Dropbox(セコイア等より総額257M$を調達)、 Airbnb(アンドリーセンホロビッツ等より120M$を調達)など、巨額の資金をVCより調達し、相当な企業価値を持つ企業も多く存在します。また、Heroku(Salesforceが250M$で買収)、OMGPOP(Zyngaが210M$で買収)するなど株式公開や買収などによりエクジットした企業も数多く存在します。Y Combinatorによると、同社が支援した企業のトップ21社の時価総額は、昨年6月の時点で47億ドルにものぼるとされています。
また、2010年に設立された500 Startupsは、設立後2年の間に、300社以上に投資を行い、すでに12社がエクジットしています。現在はさらに投資のペースが加速しており、「ホームランよりもヒットを狙う」という戦略の下、毎週数社に対して投資を行っているようです。
このように華々しい成果が上がっていることもあり、これらのアクセラレータのプログラムに採択された企業は、それだけでシリコンバレーにおける信用・ブランドを勝ち得ることができているようです。採択企業はこの高いブランド力を受け、相当の確率で次のラウンドの資金調達に成功しています。Y Combinatorの卒業生専門に投資を行うファンドも存在するほどです。また、500 Startupsは自ら選抜した企業だけではなく、他のアクセラレータの卒業生にもVCとして積極的な投資を行っています。500 Startupsが今までに投資した約300社のうち50社超が他のアクセラレータの出身企業で、うちY Combinator出身の企業は35社を占めるなど、アクセラレータの垣根を超えた協業も盛んになってきています。
当然、これらのアクセラレータに採択されることは簡単ではありません。Y Combinatorでは、直近では、60社ほどの募集のところに全世界から約3600社の応募があった模様です。また、500 Startupsは、オープンな形での公募を行っておらず、メンターなどからの紹介ベースの採択となっていますが、採択されることが困難であることは同様です。現在のバッジでは27社(うち12社が外国からの企業)が採択され、80〜90名の起業家がマウンテンビューの同社の施設に入居し、日々事業を展開しています。
当地に新たに進出する我が国のスタートアップには、シリコンバレーにおける十分なネットワーク、トラックレコードを有している企業はほとんどありません。英語の問題に加え、この点が我が国スタートアップの多くが当地で苦労している一つの大きな要因であるとも思われます。Y Combinatorや500 Startupsといったアクセラレータのプログラムへ採択されることは、このようなネットワーク、トラックレコードを手に入れるための有力な手段になり得ます。残念ながら、現在これらのプログラムに採択されている日本企業は極めて少数です。ただ、Y Combinatorに日本の企業として初めて採択された企業が現れたり、500 Startupsが日本のスタートアップ企業のリクルートを行う担当のパートナーを新たに配置するなど前向きな動きもでてきています。我が国のスタートアップの今後の頑張りに大いに期待したいと思います。 |