満を持してFacebookが5月18日にIPOを果たしました。売り出し価格は38ドル。一時45ドルまで上昇したものの、結局初日の終値は38・23ドルに留まりました。リーマンショックから3年8ヵ月、低迷する株式市場に対するカンフル剤として大きな期待を背負ってのIPOでしたが、情報公開を巡って投資家から訴訟を起こされたりして、株価はしばらくの間伸び悩みそうです。とは言っても、IPOによる資金調達額は約160億ドルに上り、IT関連企業としてはGoogleの16・7億ドルを抜き最大となりました。Facebookがアメリカ証券取引員会に提出したForm S-1によれば、Facebookが1・8億株を公募し既存株主が2・4億株を売り出しました。IPO前にFacebookの発行済み株式の28・4%を保有していたZuckerberg CEOは保有資産額で世界の26位になったそうです。創業からわずか8年で世界中に9億人を超えるユーザーを抱え、既に社会インフラとなった感があるFacebookですが、IPOにより調達した潤沢な資金でどんな事業展開を図り、株主と株式市場の極めて高い期待に応えていくのでしょうか。28才のZuckerberg CEOが一人で背負うには荷が重いように思いますが、Andreesen(Netscapeの共同設立者)、Hastings(NetflixのCEO)、Bowles(クリントン元大統領の首席補佐官)といった経験豊富な取締役達(と新妻のPricillaさん)がしっかり支えてくれることでしょう。
Facebookを「社会インフラ」と表現しましたが、Facebookの周辺で様々なサービスが、まさに百花繚乱の如く生まれてきています。個人的に面白いと感じたサービスを3つ簡単に紹介します。
@Empire Avenue
(カナダ・エドモントン 2009年設立)
ソーシャルネットワークで仮想株式市場「The Social Stock Market」を運営するベンチャー。昨年流行した言葉、「Gamification」の要素を取り入れて、ソーシャルネットワークでの活動が活発な人やサイトに対して「Eaves」という仮想通貨で値を付け、あたかも株のように取引するというサービスです。FacebookのコメントやTwitterの発言、ブログやRSSが有益で活発な人ほど高い値が付くという仕組みにより、サイトの活性化を促します。単なる株取引のシミュレーションではなく、興味や関心の対象を共有する参加者同士がビジネスに発展するケースが高いのが特色です。
AMiso
(サンフランシスコ 2009年設立)
2011年12月にKhosla Ventures、Google Ventures他から4百万ドルの出資を受けたソーシャルTVのベンチャー。同社と提携するDirecTVやAT&T U-verseといった放送局の番組に「Miso SideShow」というiPhone/iPadアプリを使ってコメントやリアクションを投稿することができ、番組に関するトリビアや音楽、写真、視聴率等を、あたかも第二の番組のように見ることができます。テレビ離れが言われて久しいですが、視聴者が放送中の番組に参加できる仕組みに放送・広告業界から高い関心が寄せられています。3月にテキサス州オースティン市で開催されたSXSW Interactiveで人気のアプリ第18位にランクされました。
BPinterest
(パロアルト 2009年設立)
FacebookのIPO前日、楽天が5000万ドルの出資を発表し大きな注目を集めました。同社のサービスは簡単に言えば、ソーシャルネットワーク上に冷蔵庫等に吊り下げるコルクボードを実現するもの。アート、デザイン、フード、アウトドア、ペット等など様々なカテゴリ毎にコルクボードに写真をピンで留めるように貼りつけ、趣味・嗜好の似たメンバー間で共有できます。ビジネスサイドからすれば、消費者の製品に対する興味や関心を特定し効果的なマーケティングが展開できることに期待が大きいようです。新しいサービスを積極的に取り入れる衣料品通販サイトのLand’s Endも利用しています。
ソーシャルネットワークの世界ではどんどんコンテンツのリッチ化(ビデオ、CGや音声を使った多彩な表現)が進んでいます。Facebookユーザが一日にアップロードする写真は、なんと3億枚にも上ります。ウォールに貼り付ける画像の推奨サイズは404×404ピクセルなので、仮に24ビットカラーで圧縮しなければ、1枚あたりのファイルサイズは約490キロバイト、一日の総量は147テラバイトにもなります。日米間のインターネットのバックボーン(基幹回線)は大手の通信事業者で大体400〜600ギガbpsと言われていますが、今のようなペースでデータ量が増加すれば、たちまち通信帯域が不足するでしょう。
この数年間に情報通信の世界で幾つかの大きなイノベーションがありました。アプリケーション分野のクラウド、ハードウェア分野のiPhone/iPadやAndroid端末、インフラ分野のソーシャルネットワーク、いずれもインターネットを前提としたサービスとデバイスです。インターネットのバックボーンは、通信事業者の不断の技術開発と設備投資により着実に進化していますが、サービスやデバイスの早すぎる進化を吸収するのに十分とは言えなくなってきました。売上高で世界第二位となった中国の通信機器メーカー、Huaweiが今年3月に世界初の10ペタbpsのオプティカル・スイッチを発表しました。既に次世代のネットワークは光信号を直接やりとりする方向へ向かっていますが、次のイノベーションは大容量高速通信インフラの領域で起こるような気がします。 |