BaySpo 1240号(2012/08/31)掲載
米国の政治とビジネスについてA
ェトロ・サンフランシスコ・センター 事務所長 岡田 俊郎
岡田 俊郎(おかだ としろう)
84年通商産業省入省、94年より3年間外務省在ブラジル日本国大使館一等書記官として日系企業の誘致に携わり、97年、資源エネルギー庁エネルギー環境対策室長に就任。2011年7月、ジェトロサンフランシスコ所長に就任し現在に至る。

 大統領選挙は、予備選挙が正式に終了して民主党・現職オバマ候補と共和党・ロムニー候補との間の選挙戦が始まり、これから11月6日の投票日に向けての佳境を迎えます。
 米国経済はリーマンショック後の不況から脱して拡大基調を維持していますが、これは、金融政策が中心となって支えているところであり、中央銀行の政策としては歴史的にも例を見ないほどアグレッシブに幅広いアセットクラスを買い入れつつ通貨供給量拡大を維持していることから、欧州の財政・通貨をめぐる状況が依然として危機状態を脱せない現状を踏まえると、もとより金融政策には独立性が担保されなくてはならず政治的争点になり得ませんが、考え方としても両候補のスタンスには大きな違いはないものと思われます。
 一方、税制の在り方、経済への政府関与の在り方、国防政策など米国の経済を中長期的に左右する政策の柱には、支持者の政治意識を考慮した政党カラーを踏まえると旗色鮮明にせざるを得ない部分があると思われるものの、欧州のような通貨・財政に関する危機を迎えないためには財政赤字の削減が至上命題とならざるを得ません。しかし社会政策的に見てラジカルな市場経済至上主義が通り難い状況の中にあっては取り得る選択肢の幅はそうは広くないものと思われます。
 今回は、大統領選挙の要素が、政策、個人的バックグラウンド、政党カラー等が多岐に絡み合う中、経済のこうした状況を前提に政策に関する二つのポイントを見ていきます。

@労働コストとフリンジ
 ベネフィット・セイフティネット
 6月のウィスコンシン州における住民投票では労働組合の権限を大幅に制限する立法を行った共和党・ウォーカー知事に対するリコールが否決されましたが、今後の政策の動向を占う上では大きなヒントになると思われます。
 最近の米国における産業再生はチャプターイレブンによる企業再編が主な柱として実施されるケースが多く、その大きな狙いはレガシーコストの一つと見られている年金や健康保険などのフリンジベネフィットを含む労働コストのカットでしたが、ウィスコンシン州における知事リコールの否決は、こうした流れが政治的にも大きなものとなる可能性を示唆するものだと思います。その際の焦点の一つは公務員のフリンジベネフィットであり、これについては基金の積み立てに不足があった場合には不足分を納税者が負担するという構造になることから、有権者の多くにとっては労働組合に対して制限的な政策が魅力的に見えたと考えられます。
 経済活性化の原動力としての企業活力を重要視する立場からは、これを高めて機敏かつ広範な企業活動を可能とするためにフリンジベネフィットを含む労働コストに関する負担を軽くすべきであって、ドイツの経済政策にはこの側面が含まれると理解されています。
 ただし、消費の太宗を支える家計は雇用者所得が基礎となっていることを踏まえると、労働コストのカットを単なる賃金切り下げと捉えるのは短絡的と言わざるを得ず、むしろ、付加価値との相対的関係における実質的な生産性を一つの尺度とすべきでしょう。
 一方で、フリンジベネフィットやセイフティネットに関しては、ドイツでは企業負担から市民負担に移行して社会を一人一人の国民が相互に支え合う方向に舵を切ったものと理解されますが、米国でも、社会政策的観点をも考慮した上で、如何なる方向に舵を切ろうとするのか、この点についての政治的な決断が求められています。

A退役軍人と国防予算
 大統領選挙においては退役軍人層の動向も一つの重要な要素であり、政策パッケージにおける退役軍人に対しての支援の在り方も問われています。オバマ大統領がこの点に関して大いに配慮を払っていることは、特に雇用機会の提供に関してベテランズ・デーの演説を始めとする様々なオケージョンにおける発信において顕著ですが、このような就職支援、帰還兵には必ず付いてまわる傷病への対応や年金の支給には多くの予算が必要となります。 
 とかく国防予算というと軍備が脚光を浴びますが、退役軍人が帰還後の諸々の課題からホームレスになるケースも少なくないことや労働力プールとしても大きな戦力になる素地を備えていることを考えると、社会・経済政策の一部としても退役軍人支援予算を上手く組み立てて有効に活用することは大変重要なことと言えます。
 財政赤字の削減が求められる中でこうした支援予算は増加するものと見込まれており、オバマ政権は、この点をも考慮しつつ、軍備そのものについては明確に削減の方向を打ち出しています。共和党側は、退役軍人層を味方に付けるため、このようなメリハリに言及することなく単に国防予算削減をもってオバマ政権を批判しているようにも見受けますが、何がボトムラインであるかについてキチンとした議論が行われるべきでしょう。

有澤保険事務所

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