BaySpo 1248号(2012/10/26)掲載
オリンピックを支えるITインフラ、次なる技術革新は?
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 次長 荏原 昌
荏原 昌(えばらまさし)
2003年日本貿易振興会(ジェトロ)入会。ジェトロ入会以前は民間企業(システムインテグレーター)で新規事業企画、ベンチャーへの投資、ジョイントベンチャーの立ち上げ等を担当。2008年3月からサンフランシスコセンター次長。新潟県出身、中央大学理工学部卒業。

 33会場で17日間にわたって熱戦が繰り広げられ、日本選手団が過去最多となる38個のメダルを獲得したロンドンオリンピックが終わりました。猛暑の日本では深夜から明け方までTV放送に熱中した挙げ句、体調を崩した方が少なからずいたとか。残念ながら米国ではTV放送権の制約があって、あまり日本選手の活躍を見ることができず、悔しい思いをした方も多かったと思います。NBCは人気競技をプライムタイムに録画で放送して視聴者から批判を浴びましたが、インターネットで競技映像のリアルタイム配信を本格的に実施したことは高く評価されると思います。大会が始まる前、一部のメディアではインターネット配信がTVの視聴率を奪うのではないか、という慎重論もありましたが、結果的にはNBCのオリンピック放送は過去最高の視聴率を記録しました。視聴者にとってはインターネット配信で自国選手の活躍や、普段目にする機会の少ない競技の映像を見ることが可能になったのは大きな進歩です。なでしこジャパンのワールドカップ以降、競技映像を見ながらツイートしたり、掲示板にメッセージを書き込んだりする応援スタイルがすっかり定着した感があります。また、たびたび本コーナーで言及しているスマートTV普及の切り札(になると私は思いたい)、史上初のフルHD・3D放送が実現しました。北京オリンピックから4年間が経過し選手は世代交代が進みましたが、IT・インターネットの分野では4年間分の技術の進化を丸ごと体感した大会になりました。
 オリンピックとパラリンピックのITインフラを構築・運営したのは、フランスに本社を置くシステム・インテグレーターのAtos社です。世界中(日本を含む)に7万5000人の従業員を配し、86億ユーロ(約7000億円)の売上を誇るIT業界屈指の多国籍企業です。同社は2002年から国際オリンピック委員会(IOC)のワールド・ワイド・パートナーとして参加し、これまでに夏はロンドン、北京、アテネ、冬はソルトレイク、トリノ、バンクーバーと合計6回のオリンピック運営を支えてきています。ちなみにIT業界で「システム・インテグレーター」とは、独自に開発したソフトウェア、パッケージ・ソフトウェア、ハードウェア、ネットワーク等をひとつのシステムとしてまとめ上げ、最高のパフォーマンスを引き出して運用を行う企業のことです。ロンドンでAtos社は900台のサーバー、1000台のネットワーク&セキュリティ端末、9500台のPCから構成される巨大なシステムを20万時間にも及ぶテストを経て3500人体制で運用しました。オリンピックのシステムはいくつかのサブシステムにより構成されています。例えば、競技結果を計測・計時して記録し配信するシステムは実際に目にする機会があって判り易いですが「Accreditation=アクレディテーション(上手く表現する日本語が見つかりません。どなたかご存知なら教えて下さい)」というシステムでは、選手や大会関係者の出入国から選手村や会場へのアクセスまできめ細かく管理する高度なセキュリティを実現しています。全世界で40億人が観戦するオリンピックは、極めて高いレベルが要求されるミッション・クリティカル(ウサイン・ボルトがゴールした瞬間に計時システムがダウンしたらどうなることか)なシステムのひとつです。注目度において匹敵するのはNASAのシャトル打ち上げシステムくらいかもしれません。Atos社の素晴らしいシステム運営はIOCから特別に金メダルを与えてもいいくらいだと思います。

 オリンピックやワールドカップといった世界的なイベントで膨大な量の映像データがアーカイブ保存されるようになってきています。加えてYouTubeやニコニコ動画といった動画共有サイトの普及により、個人が趣味として保存する映像データも指数級数的に増加しています。動画共有サイトを対象とする動画検索サイトは数多くありますが、検索の仕組みとしては動画ファイルに付けられたメタデータ(タイトル、説明文、タグ)と入力されたキーワードをマッチングさせて結果を返すものです。動画の1シーンをキーワードと直接結び付ける有効な技術が実用化されれば、動画ファイルを頭から再生して見たいシーンを探す手間が省けるようになるでしょう。例えば90分間のサッカーの試合で特定の選手がボールを保持しているシーンだけを抜き出して表示するようなことが可能になるかもしれません。データ量が多くなればなるほど不要な部分を捨てて、「意味のある」部分だけを抽出するニーズが生じます。広い家に住むと持ち物が増えるのと一緒で、ストレージコストが劇的に下がってついつい安易にデータを保存しがちですが、定期的にデータも持ち物も棚卸しをしないといけませんね。

 4年後のリオデジャネイロではどのような技術革新が見られるのでしょうか。おそらく幾つかは、ベイエリア、シリコンバレーで生まれた技術やサービスであることは間違いないことでしょう。

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