BaySpo 1261号(2013/01/25)掲載
もう一つのイノベーション
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 次長(BIC担当) 中園 雅巳
中園 雅巳(なかぞの まさし)
 東京大学工学部卒業後、経済産業省入省。同省統括技術戦略企画官(イノベーション政策担当)、特殊関税等調査室長などを経て、2010年7月より現職。ロンドン大学修士課程修了。

 シリコンバレーには、アップル、グーグル、Facebookなどの世界的なIT企業が存在します。これらの企業は、革新的なサービスや製品で世界のイノベーションを牽引しています。しかし、彼らの創造性は、そのようなサービス・製品の創造とは全く別の面、「法人税の回避」という側面でも遺憾なく発揮されていることは案外知られていません。

 企業の利益には、法人税が課税されます。米国の税制では、企業が米国内であげた利益だけではなく、世界中であげた利益が課税の対象となります。この利益に対し、国税としての連邦法人税が35%、これに加えて、州税としての法人税(税率は州により異なる)が課税されます。カリフォルニア州では、税率が8.84%なので、合計で43.84%の法人税が利益に課税されます。ただ、実際には40%を超える税率で法人税の支払いを行っている企業はほとんどありません。これは、企業が海外であげた利益は、米国にその利益が還流した場合にのみ課税が行われるからです。逆に言えば、利益が米国内に還流しない限り課税が行われることはありません。もちろん、この場合でも、利益を計上した国における法人税は課税されます。しかし、タックスヘイブンとよばれる法人税が全くかからない国や、シンガポール、アイルランドのように法人税率が非常に低い国に利益を計上することができれば法人税は相当程度軽減できることができます。

 シリコンバレーのIT系企業が収益元としているのは、主としてデジタルコンテンツなどの無形資産です。このような無形資産の場合は、その販売を海外のサーバーなどを通じて行うことにより、売り上げや利益を法人税率の低い別の国やタックスヘイブンに移転することが簡単にできてしまいます。また、特許使用料などのロイヤルティー収入もその管理会社を米国外に設立することでその収益を海外に移転することも容易です。米国のIT企業の多くは、米国のみならず世界各国の法人税の仕組みをうまく活用して、法人税の支払額を極限まで小さくするような手法を開発しています。

 アップルの事例をみてみましょう。アップルの本社はシリコンバレーのクパチーノにあります。カリフォルニアでiPad等の研究開発が行われ、アップルストアなどの販売店の多くが米国内にあることを考えれば、事業収益の大部分は米国内から生じていると考えるのが自然です。しかし、アップルの利益の約70%は海外での収益となっています。つまり、アップルは利益を何らかの方法により米国から法人税率の低い別の国へ移転しているのです。

 「Double Irish」、「Dutch Sandwich」と呼ばれる、利益をタックスヘイブンに合法的に移転する革新的な手法をアップルが作り上げたことは有名です。これは、アップルの利益の大半を、アイルランド及びオランダのいくつかの子会社を経由して、最終的にはタックスヘイブンであるバミューダ諸島に移転する手法です。このスキームを活用するために、カリフォルニアで開発した特許のロイヤルティー収入を含め同社の全世界売上の3分の1以上がアイルランドの子会社に集中されているようです。この結果、アップルの海外での利益に対する2012年の法人税率は、わずか2%程度だとの報道もなされています。この手法は、今では、グーグル、マイクロソフトなど多くの米国IT企業が節税のために活用しています。Bloombergによると、グーグルはこの手法により2007〜2009年までの間に、31億ドルもの節税を行ったそうです。
 また、アップルは、法人税の低いルクセンブルクにiTunes S.a.r.lを設立し、iTunesの世界売り上げのうちの約20%をここに集中させています。世界各国の人々がiTunesからデジタルコンテンツをダウンロードすると、その売り上げの相当の部分はこの会社に計上される仕組みです。NY Timesによると、人口50万人の小国にあるこの会社の売上は、2011年の売上は10億ドルを超えているとのことです。

 米国内においても州ごとに異なる法人税率に着目した節税も行われています。アップルは、ネバダ州リノに「Braenburn Capital」という自社の資産を管理・運用する子会社を設立しています。なぜ、リノかというと、カリフォルニア州で8.84%課税される法人税(州税)がネバダ州は無税となるからです。アップルの売り上げ収益の一部は、こうしてBraenburn Capital社に移転され、その投資から生み出される収益についての法人税(州税)を回避しています。このようなアップルの手法に倣い、ネバダ州に資産管理会社をおいて節税を行っている会社は、シスコ、マイクロソフトなど数十にも上るとのことです。

 重要なことは、これらの手法がすべて合法であるということです。シリコンバレーのIT企業は、大きな利益をあげる一方、緻密なタックスプランニングにより法人税の支払いを最小化することにも創造性を発揮しています。日本企業がこれらシリコンバレーのIT企業と競争していくためには、製品やサービス以外のイノベーションにも目を向けていくことが必要でしょう。

有澤保険事務所

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