インテル、イーベイ、ペイパル、ヤフー、グーグル、サンマイクロシステムズ(現オラクル)、NVIDIA、Juniper Networksやインスタグラム。これらベイエリアにある有名企業に共通することが一点あります。創業者(若しくは共同創業者)が、外国生まれの移民一世だということです。
シリコンバレーでは、移民一世の活躍が顕著です。カウフマン財団の調査によると、シリコンバレーで設立されるエンジニアリング系およびハイテク系の新興企業の概ね2社に1社(43・9%)は移民一世によって設立されています。また、シリコンバレーにあるハイテク関連の仕事に従事する人々のうち、64%は外国生まれの移民一世です(Joint Venture Silicon Valley調べ)。これは、全米平均の24%と比べても2・5倍以上の多さです。シリコンバレーには全米を代表するハイテク企業、ベンチャー企業が集積しており、これらの企業の従業員の約2/3が外国からの移民一世であることには驚きを感じます。まさに、シリコンバレーのハイテク産業は移民の力で成り立っていると言っても過言ではないでしょう。
特に、中国、インドをはじめとするアジア系の移民一世は、シリコンバレーのビジネス界において主要な地位を占めるに至っています。シリコンバレーを代表する企業の経営層(CEO、COOなどのCレベル役員)は、その相当数がこれらの国の出身者で構成されています。また、当地に集積している独立系のベンチャーキャピタリストのうち、投資の決定権をもっているジェネラルパートナーと呼ばれる人々も相当数がこれらの国の出身者です。
翻って、日本の状況を見てみましょう。シリコンバレーにある世界的企業の経営層に在籍している日本出身者はほとんどいません。また、当地の独立系ベンチャーキャピタルにおいてジェネラルパートナーとして活躍している日本出身者も極めて少ない状況です。
なぜ、このような大きな差がついているのでしょうか。これには、日本特有の背景があります。日本では、いい大学を出て(国内の)大企業に就職するというのが優秀な人材の一般的なキャリアパスとして存在します。もちろん優秀な方が米国で挑戦している事例もありますが数は少なく、多くの方は大学卒業後も国内にとどまります。
また、米国で活躍する各国出身者のプレゼンスを考えたときに重要な指標になるのが留学生の数です。米国への各国からの留学生の数を見てみましょう。IIE(国際教育協会)の統計によると、2011年の米国への留学生数は中国約20万人、インド約10万人、日本約2万人です。つまり、中国、インドからは、それぞれ、日本の10倍、5倍もの数の留学生が学んでいることになります。(この傾向はシリコンバレーでも同様と思われます。)これら中国、インドからの留学生の多くは、学位取得後も米国に留まることを選択しています。これに対し、日本からの留学生は留学終了後、多くは日本に帰国してしまいます。このような傾向は以前から継続しており、その積み重ねが、シリコンバレーの主要企業及びベンチャーキャピタルの幹部層での日本出身者の少なさ、ひいては、当地で活躍する日本人のプレゼンスの低さにつながっていると思われます。
このような日本人のプレゼンスにさらに影響を与えかねない議論が米国内で進んでいます。米国議会では、米国の大学で学位を取得し、米国内で起業する外国人に起業家ビザ(Startup Visas)を付与することについて議論がなされています。この起業家ビザは、米国内でベンチャー企業を設立、資金調達をし、一定数以上の雇用を確保した起業家に対して付与されるものです。実は、このアイディアは2011年にも議会で議論されたのですが、結局は廃案になっています。ただ、今回は、シリコンバレーのハイテク産業界も熱心に法案をサポートしているようです。3月14日には、HP、フェイスブック等シリコンバレーを代表する企業・投資家からオバマ大統領宛に、起業家ビザを含む移民法の早期改正を要請する書簡が送付されています。実現すれば、H1―Bビザのカテゴリーが新たに設けられた1990年の改正に次ぐ、23年ぶりの大きな改正になるでしょう。今回の移民法改正の主要な受益者は、留学生の多い中国、インドといった国々であることは明白です。日本人が対象になる事例は留学生数、日本人の国内志向の強さから考えてもあまり多くはないでしょう。
日本人の国内志向の強さは、国内において優秀な人材が活躍し、処遇される場が豊富に存在していることの裏返しかもしれません。しかし、少子高齢化が進み、今後の国内マーケットの成長が望めなくなる中、日本人が活躍の場を海外、特に、世界のイノベーションの中心地であるシリコンバレーに求める意義は大きいと思われます。日本人の内向きのマインドセットが転換し、留学等で視野を広めた日本人が、さらにシリコンバレーで世界を相手に飛躍していくことを期待しています。 |