ジェトロサンフランシスコの師田(もろた)と申します。前任の中園次長の後任で7月3日に着任しました。前職は経済産業省で半導体やエレクトロニクス産業を3年間担当していました。今回、本誌に寄稿するという貴重な機会をいただきましたので、自己紹介を兼ねて、私が前職で担当していた半導体産業の話を紹介させていただきます。
半導体といっても、具体的な製品がピンとこないかもしれませんが、パソコン(ラップトップ)やスマートフォンに入っている黒色の小さな電子部品で、記憶とか計算等の「頭脳」の役割を果たすもので、電子機器の高度化を支えているのが半導体の技術進歩と言っても過言ではありません。また、LEDのように光を出したり、デジタルカメラの受光部のように光を電気に変える半導体も出てきており、世界の半導体市場は10年で約2倍になるという早いペースで成長しています。
しかし日本の半導体産業は、1988年には世界の約50%のシェアを獲得するという時代がありましたが、徐々に世界シェアを下げ、2012年ではわずか約17%となってしまいました。図1をご覧ください。日本のシェアが低下し、米国とアジアが伸びている状況がご覧いただけると思います。
なぜ日本の半導体産業はこんなに弱くなってしまったのでしょうか。その最大の要因は円高です。図2をご覧ください。「輸出割合」とは出荷に占める輸出の割合で、これが高い産業は円高が損になります。また「輸入調達割合」とは調達に占める輸入の割合で、これが高い産業は円高が得になります。半導体はいずれの面でも他産業に比べて円高が不利になる産業です。プラザ合意以降の円高が進み、2011、2012年は1ドル=80円を割るという記録的な円高の直撃を受け、DRAMという記憶用半導体大手のエルピーダメモリが会社更生法の適用を申立てる等、日本の半導体産業は極めて厳しい状況にありました。
また、半導体は常に技術進歩・イノベーションが求められます。米国が半導体のシェアが上昇したのは、新しい製品やビジネスモデルを作り世界の市場をリードしてきたからです。例えば、世界最大の半導体企業のIntelは、常に新しいCPU(計算を担う半導体)を生み出してパソコンの技術進歩を支えてきましたし、昨年世界第3位に飛躍したQualcommは、スマートフォンという新しい製品の通信と計算を担う半導体を設計し、台湾のメーカーに生産させるという新しいビジネスモデルを生み出してきました。一方で日本の半導体産業は、半導体をどう作るかについては頑張ってきましたが、何を作るかについての取り組みが遅れたという面があったと思います。
しかし、今年に入ってからは、明るい要素も見られるようになってきました。1つはアベノミクスの効果で超円高が修正されたことです。前述のとおり円高の是正は他産業に比べても回復効果は大きいと期待され、実際に年明け以降の業況が改善している半導体企業も増えています。2つ目は日本の半導体産業の構造変化です。前述のエルピーダメモリは、米国の半導体企業のマイクロンがスポンサーとなって、日米連携で世界市場で戦う体制が構築されています。ほかにも、選択と集中を通じて自社の強みに経営資源を集中させる日本の半導体企業も出てきました。
現在は、この業況の明るさが前向きな投資の増加につながるかが最大の焦点です。研究開発投資が増えると新製品が開発され需要が拡大しますし、生産投資が増えれば機械・装置や建物の発注が増え、産業全体で回るお金が増えていきます。半導体は「産業のコメ」といわれるように、電子機器のみならず、自動車、家電、産業機械などさまざまな製品に使われるため、全体の景気が回復すると半導体への受注が増えるという好循環につながることが期待されます。逆に、半導体産業の状況は経済全体を表しているともいえますので、ここシリコンバレーからも、その動向を引き続き注目していきたいと思います。
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