BaySpo 1296号(2013/09/27)掲載
米国の政治とビジネスC
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 事務所長 岡田 俊郎
岡田 俊郎(おかだ としろう)
84年通商産業省入省、94年より3年間外務省在ブラジル日本国大使館一等書記官として日系企業の誘致に携わり、97年、資源エネルギー庁エネルギー環境対策室長に就任。2011年7月、ジェトロサンフランシスコ所長に就任し現在に至る。

 本稿では、昨年から今年の6月にかけて4回にわたって、大統領選挙戦の動向と結果、米国国内における産業活動に大きく影響しそうな政策分野の動向、その具体論としての包括的移民政策の動向などに触れてきましたが、今回は、連邦政府の財政赤字削減とマクロ経済政策の動向を握る連邦準備制度理事会議長の人事に触れ、本連載のひと区切りとします。

1、連邦政府の財政赤字削減
 カリフォルニア州政府の財政は市民生活に直接関係する教育や街づくりを含めた広範な分野における厳しい規律によって今財政年度は黒字に転じましたが、連邦政府に関しては、いくつかの緩和策は講じられているものの基本的にはSequestrationと呼ばれる一律削減策による暫定的な規律が続いており、発動期限が先送りになっているDebt Ceilingと併せて、レイバーデー明けに再開された連邦議会における根本的な打開策の決定が期待されますが、当面は、本質的な議論の先送りが続くというのが大勢の見通しです。
 日本では、この夏の参議院選挙の結果、衆議院・参議院のいわゆる捻れが解消しましたが、米国の連邦議会では民主党が過半を占める上院と共和党が過半を占める下院が捻れの状態にあり、前回紹介した移民法案審議が1つの流れにまとまらないことに見られるとおり、重要な審議案件に関する双方の対立が常態化してしまっています。また、特に共和党内は一枚岩とは言い難く党内強硬派とも言えるTea Partyの動向が注目されるところですが、Internal Revenue ServiceによるTea Party狙い撃ち査察が表面化して、「被害者」側であるTea Partyの政治的勢いが増す傾向にあって、共和党の対民主党・強硬姿勢が強まることは大いに予想されるところです。
 オバマ大統領は、中産階級へのサポートを合言葉にして、産業や雇用の振興に結び付く予算の削減度合いを緩めたい一方で国防予算については海外への地上兵力投入の削減を大きな流れとしつつ削減の手はさほど緩めないものと見込まれますが、これらの点は両党の政治哲学が真っ向から異なる点です。共和党は、基本的に市場への過度の政府介入を潔しとせず、また、国防に関しては、強いアメリカという政治的建前と軍需産業との繋がりという実利の両方の側面から、オバマ大統領の考え方とは隔たったところにあるわけですが、Tea Partyの政治的勢いが増すことで溝が深まることが懸念されるところです。政治は妥協の産物ですから、もしもオバマ大統領が本当に大筋における政策の流れを作りたいのなら自ら「ディール・パッケージ」を考案しつつ連邦議会の指導者たちと実行に移すといったリーダーシップを発揮することも必要かも知れません。
 ベイエリアを見ても、連邦政府の研究所や国防関係の施設が所在しているので財政削減がこのまま続くことによるマイナスの影響がないというわけにはいきませんし、退役軍人の家族が退役軍人局の職員削減により恩給などの支給手続の滞りに苦しんでいるといった現実もあります。しかし、裏を返せば、Hacker DojoにおけるNASA Amesラボの研究者のプレゼンスに象徴されるよう民生転換がさらに進展すると見込まれる部分もあります。

2、連邦準備制度理事会議長の人事
 レイバーデー明けに再開された連邦議会においていま注目される1つの案件は、連邦準備制度理事会議長の人事です。バーナンキ現議長は2006年にグリーンスパン前議長を引き継いで2期8年にわたって重責を担ってきましたが、来年1月に任期を迎えます。この間、特に1期目においては、サブプライム問題やリーマンショックといった世界の金融制度の根幹を揺るがしかねない大きな問題と対峙してきましたが、政策的には、従来は考えられなかったような幅広いアセットクラスを連邦準備銀行が買い入れる量的緩和策を三次にわたって実施してきました。
 前回触れたように失業率を目安としながら量的緩和策を続けてきたわけですが、失業率が直近では7%台前半まで下がり、市場はいつから量的緩和策の縮小が始まるかを注目するようになって、本来失業率の低下は好材料と考えられるところが逆に量的緩和策の縮小を示唆する悪材料として受け止められるような中でオバマ大統領は後任者を指名しなければなりません。候補者としてはイエレン現連邦準備制度理事会副議長及びサマーズ元財務長官の名前が挙がっていましたが、今月半ばには民主党内の反対論を懸念したサマーズ氏が指名を辞退する状況となりました。
 御両人に関する世評は、金融緩和後も実体経済から判断して暫くデフレ的な状況が継続するであろうことを予測し抜いたこと、労働経済が専門分野なので政策目標を達成する上ではより適任であるとみられることなどから、イエレン氏の方が高かったですが、御本人はローキーを貫いてきています。イエレン氏は1980〜90年代にかけてUCバークレーの准教授・教授を務めた後、2004年〜2010年にサンフランシスコ連邦準備銀行総裁を務めるなどベイエリアとも縁の深い方であり、重責に向けた去就が注目されます。

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