BaySpo 1305号(2013/11/29)掲載
米国の製造業回帰を検証する
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 次長 木村 洋一
木村 洋一(きむら よういち)
91年4月日本貿易振興会(ジェトロ)に入り、海外調査部、企画部などを経て2011年4月より現職。98年3月〜2002年8月ジェトロ・ニューヨーク勤務。早稲田大学政治経済学部卒。東京都出身。

 米国製造業による海外生産拠点、特に中国から米国へ工場を戻す動きが話題になっています。こうした動きは、製造業の米国への再上陸(リショアリング)や、製造業の復興と呼ばれます。

こんなモノもリショアリング?
 ベイエリアでも「サンノゼ・マーキュリー」紙が取り上げたこともあって、生産を中国からカリフォルニア州に戻した「カリボウル(Calibowl)」というプラスチック製の容器の事例が知られています(写真)。
 100%リサイクル資源で、「中身がこぼれ落ちない(Non-Spill)ボウル」であるカリボウルを製造・販売するのは、ヘイワードに本拠を置くシンプル・ウェーブという企業。創業後2年間は中国企業に生産を委託していましたが、Made in USAへのこだわりや品質管理の徹底、輸送コストの削減のため、自社近郊ユニオンシティのプラスチック成型メーカーに生産を委託、昨冬に米国への「リショアリング」を果たしました。
 同社を始めとして、企業レベルの動きを見ると、製造業が国内に製造拠点を新設したり、国内の既存設備を拡張するなど、国内回帰の動きが活発になってきているようにも見えます(表参照)。

背景に新興国での賃金上昇も
 こうした動きは、ボストン・コンサルティング・グループが2011年8月、新興国での賃金・物流コスト上昇などで製造業が米国内に回帰し「80万人規模の雇用が生まれる」と分析したレポートを発表したことが契機となり、企業関係者の関心を集めてきました。また同社は2012年4月、年間売上高10億ドル以上の米大手製造業の3社に1社強(37%)の企業経営陣が、中国から米国への一部事業移管を予定または検討しているとのレポートを発表、国内回帰トレンドの事実を裏付けました。
 このほか、プライス・ウォーターハウス・クーパーズ(2012年9月)、やマサチューセッツ工科大学(2013年1月)なども、製造業の国内回帰の合理性や裏付けを示すレポートを相次いで公表してきました。いずれのレポートでも、@産業の特徴、A物流やエネルギーコスト、B市場近接性、C人材確保コスト、D資本アクセス、E為替リスク――などを考えると、ビジネスモデルやビジネス特性によっては、米国での生産に合理性があると結論付けています。

国内回帰トレンドはまだ見えず
 一方で、ジェトロの米国各事務所が企業関係者や金融関係者、企業誘致を担当する商務省、複数の州や郡などの経済開発局の誘致関係者に聞いたところでは、回帰トレンドについては依然として慎重な見方が一般的でした。サンフランシスコにあるベイエリア・カウンシル経済研究所も、「シリコンバレーにも事例はあるが、今の段階では実例が少なく、トレンドとは言い切れない」との見方を示しています。テキサス州内の関係者のように回帰事例が増えていることを指摘する関係者がいるのも事実ですが、まだまだ少数派といえるでしょう。
 結局のところ、実際の回帰事例を見る限り、投資は個別のビジネス戦略の積み重ねの結果に過ぎず、トレンドとして捉えることについては時期尚早で、国内回帰が本格化するか否かの判断には、もうしばらく趨勢(すうせい)を見守る必要があるといえそうです。

 

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