70年代にはもう反組合意識が存在
シリコンバレーに本社を構える大手ハイテク企業は、労働組合とは無縁だといえます。高額な給与(表参照)や手厚い福利厚生など、恵まれた労働条件下で勤務する従業員にとっては、とりたてて労働組合を組織する必要がないからです。
もう一つの背景になっているのは、歴史的に労働組合をよしとしない、シリコンバレーのハイテク企業の企業風土です。例えば、インテルの共同創業者ロバート・ノイス氏は生前、「労働組合を持たない企業であり続けることが企業存続に必要不可欠」と述べており、シリコンバレー創成初期の1970年代には、すでに反組合意識があったことがうかがえます。こうした意識は、現在もシリコンバレーで生き続けているようです。
一方の労働組合側は(実際にはハイテク企業には労働組合がないので、『労働者側』と言った方が適切かもしれませんが)、「テクノロジーが従来の産業を崩壊させ、雇用機会を奪っている」とハイテク企業に強い反発心を抱いているように感じられます。
組合批判?の発言に労働者側が反発
ハイテク企業と労働者側が互いに強く反発しあう構図は、昨年2回に渡って行われたBARTのストライキで浮き彫りになりました。
ことの発端は、1度目のストライキが起きた昨年7月に、公共メディアAPM配信のラジオ番組「マーケットプレイス」に寄せられた、2人の『テックピープル』からの「ハイテク産業の仕事は労働組合と正反対」、「二度とストが起こらないように、BART従業員の仕事は自動化すべき」といった労働組合批判ともとれるコメントだったとされています。
これらは、ソーシャルメディアを通して広く知られることとなり、労働組合支持者から反感を買っただけでなく、テクノロジー産業以外を見下す発言と捉えた一般市民からも批判の声が向けられました。
さらに、ツイッターの幹部が自身のアカウントに投稿したツイート、「茶色と黒で、BARTのストライキを引き起こした人に似合うものは?それはドーベルマン。(怒りすぎ?渋滞にはまって長い一日だ)」―は、その翌日にBART経営陣が雇った労働者2名が、作業中に電車に轢かれて死亡する事故が起きたことも手伝って、不謹慎な発言として批判を浴びました。
通勤バスが原因で家賃急騰?
労働者や中流階級に属する人々も、テックピープルへの反発心を一層強めているように見えます。昨年12月9日、サンフランシスコのミッション地区で、抗議団体が市内からマウンテンビューの本社キャンパスへ従業員を運ぶグーグルのシャトルバスを取り囲み、その運行を妨害するデモを起こしました。
この団体の主張は、グーグルが従業員をバスに乗せるためにMUNIのバス停を利用していることが、公共インフラの不適切な使用にあたるというものでした。しかし、本当の目的は、多くのテックピープルがサンフランシスコ市内に流入したことが原因で、これまで中流階級が多く住んでいた同地域の家賃が上昇し、家賃が支払えなくなった住人が引越を余儀なくされていることに対する抗議だったと考えられています。
確かに、UCバークレーの調査によると、これらのシャトルバスのバス停から徒歩圏内の物件は、サンフランシスコの他のどの地域より人気が集まりやすく、急激な家賃の上昇は、「グーグルバス効果」や「サンフランシスコのドットコムブーム2・0」と呼ばれるほどです。
サンフランシスコやシリコンバレーの好況が続くなかで、こうしたハイテク企業と労働者側の対立の構図はこれからも続きそうです。
(執筆協力:高橋由奈) |