日本では、現在、一昨年末に発足した第二次安倍政権の経済運営によって、景気が底堅く上向きに推移していますが、これをチャンスと捉えて、米国、なかんずくベイエリア・シリコンバレーとの間での経済交流を活性化することが、我が事務所に課せられた最も重要な使命です。
今回は、こうした背景を踏まえながら、米系及び日系の経済界から約200名の方々に御参加いただいて、去る2月10日にサンフランシスコで実施した経済交流シンポジウムに触れます。
経済交流シンポジウム
本シンポジウムは3部構成で、第1部で、横尾経済産業省貿易経済協力局長から日本経済と政策の最新動向や日本の強みとインセンティブなど日本の魅力を紹介し、対日投資の機会を見逃さないようメッセージを送るとともに、研究開発企業のCEO(PARC社フーバー氏)からイノベーションにおける日米企業の連携にも触れ、ビジネスの機運を高めました。第2部は、成長著しい情報技術(IT)、エネルギー・環境、ヘルスケア・医療機器の3分野に分かれ、将来どのようなビジネスチャンスが見込めるか、日本が誇る高い専門技術が米国企業にどのような付加価値を提供できるか、日米企業の協業をいかに促進すべきか、各分野のリーディング企業をパネリストとしたディスカッションおよび来場者と双方向の意見交換を実施しました。情報技術(IT)では日本の市場性、エネルギー・環境ではスマートグリッド、ヘルスケア・医療機器ではビジネス現場としての日本の有望性について議論が交わされました。第3部では、日本市場あるいは日本企業とのビジネス経験のある識者を招き、「日本の謎を解いて市場に進出するために」と題し、米企業が抱く日本とビジネスする際の誤った認識を取り除くことを試み、女性の雇用環境の改善や、外国製品の関心度の向上、日本国内の決定プロセスの変革などに話が及びました。
キーノートスピーチ概要
これらの中で純粋にビジネスの視点からも興味深かった、第1部のPARC社フーバー氏のスピーチ「ビジネスにイノベーションを取り入れるには」の概要は次のとおりです。
世の中を変える力のあるイノベーションとは、「人間の行動とその背景」「技術の専門性」「ビジネス上の新しいモデル」の3要素をよく理解したうえで、それらを巧みに組み合わせてビジネスに体化することで実現されるもので、単に技術に焦点を当てるだけでなく、「人間」にも焦点を当て、さらにそれが儲かる仕組みになる必要があります。PARCは、ITや環境の分野に関連する先端的な要素技術、エスノグラフィといった人間行動を知る手法、イノベーション創出に関するコンサルティング手法などを携えつつ、自ら率先して連携の輪の中に入って、各社が必要とされる諸要素の強みを持ち寄る相互補完型の提携を構築することを通じて、こうした取り組みが迅速かつ効果的に成功に繋がることを支援しています。
日本の拠点を強化したのは、こうした動きに対する日本企業のニーズが高まったことが非常に大きい要因ですが、富士ゼロックスを通じた日本との長年のビジネス経験から、現地に進出することで得られる「人脈の構築」も、成功には欠かせないと考えたことにもよります。
これからのものづくりに関するビジネスチャンスは、大勢の人々に、個々の希望に叶った商品を提供する仕掛けにあります。キックスタータがその一例ですが、良い製品のアイディアがあって消費者に訴求するだけでなく、そのアイディアをスケジュールどおりに製品化するバリューチェーンが利用出来ることが重要で、最近では製品化の複雑なプロセスを簡単にマネージ出来るツールやネットワークが構築されてきているものの、キックスタータの製品化成功確率が25%なのを見て分かるとおり、まだまだ進化が必要です。今までは「同一製品の大量生産」であったのがデモクラタイズ(民主化)されて「多種類の新商品生産」の時代となってくるということですが、それを支える仕組みにチャレンジが存在し、そこに日米両国の産業界にとっての大きなチャンスが存在しています。
日本展開のメリット
最後に、ブレイクアウトセッションで提起された、日本へのポジティブな見方に触れます。IT分野のセッションでは、日本展開のメリットについて、「韓国等、ほかのアジアの国々では日本と同様のモデルを使用している場合が多いので、日本で得た経験はアジア展開においては重要」「日本の医療環境は安定しており、政府にコストを抑えられているので医療機関を使う人が多い」との見解が示されました。また、ヘルスケア・医療機器分野のセッションでも、日本特有の医療機器の重層的流通構造についての言及があった一方で、最先端高齢社会たる日本は、米国にとっても実験場として大きな機会を提供すること、米国では未だにうまくいかない新製品の医療現場への導入が、日本でいち早く成功した事例、日本ではデータの裏付けが確立していれば、海外の結果が進んで受け入れられるといった最近の傾向など、日本の魅力や、変わりつつある日本の現状への言及が数多くありました。 |