BaySpo 1335号(2014/06/27)掲載
日本とベイエリアの経済交流活性化に向けてA
ジェトロ・サンフランシスコ・センター 事務所長 岡田 俊郎
岡田 俊郎(おかだ としろう)
84年通商産業省入省、94年より3年間外務省在ブラジル日本国大使館一等書記官として日系企業の誘致に携わり、97年、資源エネルギー庁エネルギー環境対策室長に就任。2011年7月、ジェトロサンフランシスコ所長に就任し現在に至る。

 これまで約2年半にわたり御愛読いただきましたが、今回が小職による寄稿の最終回になると思いますので、総集編的な意味合いを込めつつ、経済交流活性化を念頭に置いた日本がシリコンバレー・ベイエリアから学ぶべきポイントに触れます。

@ビジョン〜世の中の先々を見据えて顧客や社会のニーズをどう先取りするか〜
 シリコンバレーにおいて持続的に展開するスタートアップの活動を見ていて感ずることは、起業する人々は明確に自らのビジョンを確立して事業に臨んでいるという点です。要は世の中の先々を見据えて顧客や社会のニーズをどう先取りするかということなのですが、これがシッカリしているか否かで事業の成長性は自ずと異なってきます。故スティーブ・ジョブズ氏はビジョナリーと呼ばれましたが、一般消費者を正面から相手にした分野でこれほどまで社会的に際立たないとしても、ベンチャーキャピタルを始めとする投資家から人望を集めるためには、事業の背後に「なるほど」と思わせるモノの見方、考え方、信念といったバックボーンが不可欠ということでしょう。このことは、事業を成功させる秘訣は客が代金を支払う前に、その製品なりサービスの価値を体感する必要があると言われること、また、逆説的に金を追い求めているだけではお金は逃げていくと言われることに一脈通じると思います。日本の事業再建においては事業売却が前面に立つことが多く、そこにシッカリしたビジョンが無ければ縮小均衡の悪循環に陥る危険が高いことと好対照をなすように感じます。

Aビジネスとしての実現を可能にするテクノロジーとエンジニアリングの存在
 他方、ビションという抽象概念だけで事業が成り立つほど世の中は甘くないのも事実です。そこにはビジネスとしての実現を裏打ちするテクノロジーとエンジニアリングが不可欠ですので、このシリコンバレー・ベイエリアにおいては才能溢れたエンジニアが引っ張りだこになるわけです。ここで重要なことは、今まで存在しなかった物事を実現させることがスタートアップの目的で、一言でテクノロジーやエンジニアリングと表現出来ても具体論となると誰でもが実現出来るわけではなく、自ら積極的に局面を打開するような提案型人材が重宝され、こうした人材の獲得を目掛けて競争が発生することになります。当地のハイテク企業の経営者に日本のエンジニアについての印象を訊ねると優秀だが待ちの姿勢に見えるというコメントが返ってくることが多いのですが、こうしたメンタリティのちょっとした違いが結果・成果の大きな違いを生むことを再認識すべきだと感じます。

B機敏な軌道修正
 よくシリコンバレー・ベイエリアは失敗に寛容だと言われますが、これについては、もう少し注意深く見た方がよいと思います。投資家の立場から見れば、回収不能になることを避けたいのは洋の東西を問わず当然のことなのですから、当地でも大失敗は避けるに越したことはありません。むしろ、大失敗にならないように、日頃から小さな失敗を繰り返す中で機敏に軌道修正を掛けることが当地での成功の秘訣のように感じます。事業の運営は仮説を検証するところから始まるわけですが、仮説が間違っていたという失敗を痛手が大きくならないうちに認識して正しい方向に軌道修正することが大切なのです。その意味において、間違いを恐れていては仮説を立てることは出来ず、よって事業も始められませんから、一方踏み出した時の失敗は常に許されるわけです。ただし、それに気付かないこと、ましてや気付いても修正しないことは投資家から見れば許し難い背任行為になるわけですから、いつまでも自分の最初の仮説にこだわり続けるような強情を張っていればよいわけではないと思います。

Cスケーラビリティという概念
 シリコンバレー・ベイエリアでは、よく急成長企業を目の当たりにしますが、その鍵を握るのがスケーラビリティという概念です。この言葉は、元来IT分野でシステムの規模の変化に柔軟に対応できる度合いを表現するものですが、ITに基づいた事業領域が急拡大するにつれて、ビジネス用語としても幅広く用いられるようになりました。IT用語としては規模の縮小も視野に入りますが、ビジネス用語としては専ら規模拡大それも急展開というニュアンスで使われるのが普通です。ベンチャーキャピタリストが投資の意思決定を行う際には常にこの概念を意識しており、通常はこの前提が満たされなければ投資することはないと言っても過言ではありません。このことは平均して3年から5年以内にはイグジットすることを資金の出し手から求められるベンチャーキャピタルにしてみれば当然ですが、その裏に決して高くないスタートアップの成功確率があることも見逃せません。命懸けで精一杯頑張る姿が目に浮かぶようで、日本にとって大いに参考になると思います。

有澤保険事務所

自動車保険をはじめ、火災保険、アンブレラ、ビジネス保険、労災保険、生命保険、健康保険などを取り扱う総合保険会社です。Farmers
Insurance、Blue Cross等のエージェントであり、日本語できめ細やかな安心のサービスを提供しています。

有澤保険事務所
2695 Moorpark Ave, Ste 101, San Jose, CA, 95128
http://www.arisawaagency.com

有澤保険事務所
(408) 449-4808
No Reproduction or republication without written permission
Copyright © BAYSPO, Inter-Pacific Publications, Inc. All Rights Reserved.