米国での技術関連の展示会やビジネスイベントでは、基調講演やパネルディスカッションに加え、ベンチャー企業向けに製品やサービスを発表する場を設けています。シリコンバレーでは、こうした発表に特化した「ピッチイベント」が盛んに行われ、コンテスト型も人気を集めています。ベンチャー企業にとっては、自社製品やサービスを投資家やメディアに披露し、資金調達や大手企業による買収へとつなげる、まさに「成功へのファーストステップ」です。
そのピッチイベントの中でも特に注目されているITの国際イベント「ディスラプトSF」が9月9〜11日にかけて行なわれました。
著名人による審査が人気呼ぶ
オンラインメディアのテッククランチ(TechCrunch)が開催するビジネスイベント「ディスラプト(Disrupt)」では、参加企業の製品・サービスに対し審査員が優劣をつけるコンテスト方式の「スタートアップバトルフィールド(Battlefield)」と呼ばれるピッチセッションを設けています。参加条件は、応募時点で企業設立から3ヵ月未満のスタートアップ企業のみ。世界各国から約800社が応募し、その中から選りすぐられた26社に加え、イベント当日に来場者によるオンライン投票によって選別された2社が、開催中2日間にわたって審査員と観客を前に自社のサービスや製品のプレゼンテーションを行いました。最終審査に残ったのは6社。ヤフーのメリッサ・メイヤーCEO、グーグル・ベンチャーズのジェネラルパートナーであるケビン・ローズ、コスラ・ベンチャーズのシニア・インベストメント・パートナーのキース・ラボイスなど、著名な6名の審査員が並ぶ前で最終プレゼンテーションが行い、その中から最も優れたサービスが、最優秀賞として表彰され、5万ドルの賞金が与えられます。これらIT業界で著名な人物を審査員に招いていることが、同コンテストの人気を不動のものにしているといえます。
1ヵ月で600万ドル調達した企業も
起業して間もないスタートアップ企業にとって、ピッチイベントは資金調達の絶好の機会となっています。テッククランチによると、これまでバトルフィールドに発表者として参加した350社の新興企業は、同コンテストに参加した後、平均で約250万ドル、合計で24億ドルもの資金を調達しているとのこと。
2013年のディスラプトのサンフランシスコ大会で優勝した、アプリケーション開発者向けにコミュニケーションプラットホームを開発するレイヤー(Layer、本社:サンフランシスコ)は、受賞からわずか1ヵ月で600万ドルもの資金を集めたということです。また同年のローンチ・フェスティバルで、スタートアップ部門のベストビジネス賞を獲得した広告プラットホーム開発のアドステージ(AdStage、本社:サンフランシスコ)は、受賞から3ヵ月で153万ドルの資金調達に成功しています。
こうしたイベントは、資金調達だけでなく、企業価値を評価されて大手企業に買収されることを望むスタートアップ企業にとっても、自社をアピールする良い機会となっています。同種の「DEMO」や「ローンチ・フェスティバル」といったピッチイベントに参加したスタートアップ企業の中でも、グーグルに吸収されたデジタル写真処理プログラムのピカサ(Picasa)、マイクロソフトに買収されたIP通信ネットワーク開発のテレコ(Teleco)や企業向けソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のヤマー(Yammer)などといった多くの企業が、大手企業によって買収されています。
決勝進出企業のCEOの半数が女性
ちなみに、今年の「スタートアップバトルフィールド」で最優秀賞に輝いたのは、2人の女性ファウンダーによって開発された、ホームヘルパーのタイムシェアアプリ「アルフレッド」でした。ハーバード経営大学院の同窓生である2人の女性が、忙しく働く生活の中からヒントを得て開発したサービスで、複数のオンデマンド型の家事代行サービスを一元管理することを可能にするサービスです。今年の「スタートアップバトルフィールド」で最終審査に残った6社のうち3社のCEOが女性であり、例年よりも女性ファウンダーの健闘が際立つイベントとなりました。
スタートアップ企業にとっての成功へのファーストステップであるピッチイベント。今後も若い企業家たちの熱意あふれるプレゼンテーションに注目が集まります。
(執筆協力:高橋由奈)
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