ベイスポ読者の皆様、明けましておめでとうございます。本年が皆様にとって実り多き一年になりますよう、お祈り申し上げます。
期待先行から実施段階に
入りつつある汎用技術革命
2016年のベイエリア経済は、一昨年後半にはじまる調整局面を引き継ぎつつ、堅調に推移した1年でした。ベンチャー投資額は2014―15年のピーク時には及ばないものの高水準にあり、ユニコーン(企業価値1000億円超の未公開企業)企業数も緩やかながら増加を続けています。不動産価格も、上昇幅こそ落ち着いたものの、依然として高止まっています。
現下の状況は、昨年の年頭コラムで指摘したITとバイオ技術の2つの汎用技術革命が期待先行から実施段階に入りつつある過渡期とみることができます。淘汰される事業モデルがある一方で、様々な産業分野で技術革新の裾野が拡がり、加速するイノベーションがますます身近に感じられる年になるでしょう。2017年も、ベイエリア経済は底固いとみています。
加速するイノベーションと
対応を急ぐ社会制度
グーグルが深層学習(ディープ・ラーニング)開発環境テンソルフローを公開してから1年余りが過ぎました。深層学習に限らず、大手企業・ベンチャー・大学発が競って様々な開発環境・ライブラリを用意することで、人工知能(AI)を扱う技術者の裾野が拡大しています。クラウド・コンピューティングが計算資源の利用コストを劇的に引き下げてITベンチャーの裾野を拡げたように、AI技術が多くの起業家・企業人に開かれることで、広範な産業分野で革新的イノベーションが進みつつあります。
バイオ技術においても、2012年に登場した遺伝子編集技術CRISPR(クリスパー)によって、先行技術に較べて容易かつ高効率で任意の標的遺伝子の改変が可能になり、研究開発効率が飛躍的に向上しています。過去10年間で飛躍的な能力向上を実現したゲノム解析技術ともあいまって、微生物から動植物、ヒトに至るまで様々な生命体の機能が明らかになり、そこに手を加えることができるようになることで、農業や医療はもとより、バイオ技術の産業応用にはずみがつくでしょう。
こうしたイノベーションの加速化に対して、法規制を含めた社会制度対応が急がれています。民泊を巡るAirbnbとニューヨーク州との争訟や、自動運転の路上試験を巡るUBERと加州交通局との対立にみられるように、道は平坦ではありませんが、新技術・サービスの社会的受容に向け、市民社会との真摯な対話・交渉に一層の努力が望まれます。
新たな社会契約の模索
昨年は、英国の欧州離脱と米国のトランプ政権誕生に象徴されるように、既存の政治経済秩序に対する異議申し立ての声が、特に欧米諸国において大きくなってきています。グローバル化の深化が先進国の政治的安定を支える中間層の雇用や所得を圧迫していることが主たる要因ですが、加速するイノベーションがホワイトカラーを含めた多くの職種で将来不安を招いている側面もあります。当面、グローバル化には一定の抑制がかかると思われますが、汎用技術に裏打ちされたイノベーションは引き続き進行するでしょう。
イノベーションの恩恵を社会が遍く享受できるよう、セーフティネットの再構築と生涯教育の充実、イノベーションが生み出す資本収益に対する社会的再分配のあり方を含む、新たな社会契約が求められています。2017年が、社会全体で新たな社会契約に向けた建設的な議論・検討に向けて一歩踏み出す年となるよう祈念しています。
最後に、読者の皆様の益々の御繁栄をお祈りするとともに、ジェトロ・サンフランシスコが皆様方の御役に立つよう一層精進を重ねることを御約束して、新年の御挨拶の結びといたします。 |